
大手企業を中心に、それらの取組みが当たり前になりつつある「ESG経営」。中小企業にとっては、自社にはまだ少し遠い話のように感じているかたも多いのではないでしょうか。
ところが、実際にはそうでありません。ESG経営の視点を持つことはすべての企業に求められており、中小企業を含め多くの企業がその具体的な取組みを進めるという段階に移行しています。
オフィス業界では、木造オフィスの建設が注目を集め話題に。環境認証を取得するビルも増加傾向にあり、環境配慮への社会的要請が高まっていることが分かります。大手企業では、入居先のビルの条件に環境配慮型であることを定めることも当たり前になりつつあるという状況です。
私たちの身近なところ「働く場であるオフィス」から始められる取り組みは、実はたくさんあります。ビル選び、オフィス構築、空間づくりの中で、ESG経営の視点から出来ることは多種多様。
日本が持続可能な成長を続けるためには、日本国内法人の99%以上を占める中小企業の取り組みが大きなカギを握ります。本稿では、中小企業でも取り入れやすい、オフィスから始めるESG経営の取組みについて具体的な施策をあげながらご紹介します。
目次
広がるESG経営と、「働く場所」への意識の変化

近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)への意識は大企業に限らず中小企業にも広がり、取引先からのサプライチェーン上の要請や、人材確保の観点からもその重要性が増しています。こうした流れは経営方針だけでなく、社員が働き、社外の関係者が訪れる「働く場所=オフィス」にも関心が向かう理由となっています。
環境への配慮を“建物”という形で示す動きが拡大
建築は、資材調達・工事・エネルギー消費などによって環境負荷が大きく、建築段階での環境配慮は社会的意義の高い取り組みとされています。加えて近年はESG投資の拡大により、デベロッパーにとって建物の環境性能を高めることが事業価値を左右する重要要素となってきました。
こうした背景から、貸主側は
・省エネ設計
・再エネ活用
・木造・木質化
といった“建築時点からの環境配慮”が一層進んでいます。この動きを対外的に示す手段として、LEED、ZEB、CASBEE など第三者機関の環境認証を取得する潮流が強まり、市場では環境配慮型物件の存在感が急速に高まっています。
現在では
・新築だけでなく、既存ビルでも付加価値向上策として認証を取得するケースが増えている
・大規模ビルに限らず、よりコンパクトな都心の新築オフィスでも認証取得が標準になりつつある
といった状況が見られます。
こうした流れが重なり、建物のライフサイクル全体で環境負荷を抑える「グリーンビルディング」や木造オフィスなど“環境配慮を前提とした建物づくり”は確実に広がりを見せています。そして、これら環境配慮型ビルの拡大は貸主側の取り組みである一方、テナントにとっても多方面でプラスの効果が期待できます。
木造ビル・グリーンビルがもたらすメリット

木造やグリーンビルは環境面だけでなく、働く人と企業にさまざまな利点をもたらします。
・省エネによる運用コストの抑制(高断熱・高効率空調・自然採光の活用など)
・室内環境の質向上による従業員の健康・快適性・生産性の向上
・木材の心理的効果(ストレス軽減・リラックス、居心地向上)
・企業ブランド・採用面でのプラス効果(環境配慮の姿勢を対外的に示しやすい)
東京都心5区では、環境認証を取得した賃貸オフィスビルの割合が近年大きく伸び、2024年度調査では延べ床面積で過半を超え、2025年度も前年度比+5pt(2022年度比+18pt)と増加が続いているという報告(※1)が見られます。
※1 延床面積 1,000 坪以上かつ 1981 年以降竣工ビルを対象ビルとした調査
とはいえ、全体のストックから見るとまだ限られており、特に中小規模の物件では供給が十分とはいえません。そのため、環境認証ビルは賃料が高めに設定されるケースもあります。グリーンビルを検討する際は、快適性・省エネ効果・企業イメージへの寄与といった長期的価値も含めて判断することが重要です。
企業が、「働く場であるオフィス」からESG経営の視点で取り組めることは、グリーンビルの選定以外にも数多くあります。次の章では、その第一歩として取り組みやすい施策をご紹介していきます。
中小企業の実践するESG経営

これまで見てきたように、ESGは中小企業にとっても身近なテーマになりつつあります。ここからは、そうした流れを踏まえて、取り組みの入口として検討しやすいポイントをいくつかご紹介します。
ESG経営視点で取り組む!オフィス選び
ひとつ目は、グリーンビルの選択。環境配慮型のオフィスビルに入居することは、社内外に対して効果的に環境意識の高さを訴求することができ、従業員の健康や生産性向上が期待できます。
さらに、居抜きオフィスやセットアップオフィスを選ぶこともESG経営を進める取り組みのひとつ。居抜きオフィスでは、スクラップ&ビルドの過程で発生する廃棄物を削減できるため環境負荷を軽減します。また、あらかじめ設えられた意匠・家具を利活用するため二酸化炭素排出量が低減でき、専有部外の共用スペース(共用会議室・ラウンジ・カフェなど)を活用することで省スペース、省エネルギーになります。
ESG経営視点で取り組む!オフィス構築
環境配慮の素材を使用した家具や内装材を選ぶことも、ESG経営につながる取り組みです。家具や内装材には、再生材・リサイクル材を活用して製造されているものがあります。また、国産木材を利用した製品などは、輸送にともなう二酸化炭素の排出量を大幅に低減でき、さらには日本の森林を守り育てる「緑の循環」を支える貴重な取り組みです。
近年は、資源使用量を最小限に抑えるために軽量化や省資源設計を施した家具が増えており、耐久性を保ちながら環境負荷を低減できる点が特徴です。さらに、モジュール化された家具であれば、レイアウト変更に柔軟に対応でき、再組み立てやリユースが容易なため、廃棄物削減にもつながります。こうした環境配慮型家具を取り入れることは、オフィスの質を高めながら、持続可能性にも寄与する取り組みとなります。
適切な管理がされている森林から生産された木材・木材製品であることを証明する国際認証「FSC認証」、環境保全に役立つと認められた商品につけられる日本の環境ラベル「エコマーク」、国や地方公共団体が優先的に購入すべき品目(特定調達品目)の判断基準に適合した製品「グリーン購入法適合品」など、環境認証取得製品を採用するのもひとつの方法です。
ESG経営視点で取り組む!オフィス空間づくり
ヒトとヒトとが適度に交流し合い、組織の一体感が保たれていることもESG経営の大切な要素。空間デザインを工夫することで、コミュニケーション、コラボレーションが促進されます。通路や家具の配置などによってヒトが行き交う際に自然と会話が生まれる工夫をしたり、オープンな交流スペースやカフェエリアを設け、部署を超えた偶発的コミュニケーションを促すのも有効です。
また、MTGの多様な在り方をサポートするスタンディングテーブルや小規模MTGブース、ハイブリッドワーク下でも円滑な連携を可能にする大型ディスプレイの導入などもその効果が報告されています。
さらには、集中・リラックス・協働・アイデア創出など、目的ごとにワークスペースをエリア分けすることは、生産性と快適性の両立が期待でき、従業員が自ら働く場所を選択できるルールにすることで、自律性を高め従業員満足度の向上も期待できます。
植物、自然光、水などの自然要素を空間に取り入れることで、ヒトの心身の健康や幸福感の向上が期待できます。オフィス空間に観葉植物、グリーンウォール、木などの自然素材を配置したり、自然光を採り入れるのは効果的。段差のないシームレスな設計、明確なサイン計画など誰にとっても使い勝手の良いユニバーサルデザインを取り入れることも、ヒトにポジティブな効果をもたらします。
まとめ

オフィス環境は、企業の社会との関わり方や、従業員に対するメッセージを映し出す鏡です。
ESG経営は、建物自体のスペックだけでなく、その空間をどのように使いこなし、運用していくのかが実践の鍵になります。初めの一歩は、サステナブルな取り組みが特別ではなく日常として根付いていくよう、小さな取り組みを継続し、さらに周囲に対して発信していくことが大切です。
その初めの一歩は、どれだけ早くても早すぎるということはありません。明日からと言わず、今日からでも運用面で工夫できることから着手してみてはいかがでしょうか。
当社では、ESG経営の視点を取り入れたオフィスデザインからその運用に至るまで、多数実績を備えています。小さなことでもお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(著:FRS広報チーム)