
採用がうまくいかず、思うように事業を拡大できない…
人材がなかなか確保できず業務が滞っている…
「働く環境づくり」をお手伝いしている私たちFRSは、このような「人材の確保と定着」に関するお悩みを伺う機会も少なくありません。生産年齢人口が減少を続けている昨今、深刻な人手不足は日本全体が抱える構造的な課題。採用力を上げ事業安定を図りたいところですが、思うように成果が出せず悩む企業が増えています。
採用力の強化とあわせて、せっかく採用できた人材を定着させることに目を向けることはとても重要です。採用と定着は車の両輪のように、継続的に改善を重ねていくテーマだといえるでしょう。私たちFRSも、お客様のオフィスづくりを通じてこのテーマに日々向き合いながら、より良い働く環境とは何かをともに考え、学び続けています。
本稿では、従業員の定着に焦点を当て、その重要性や改善策を、具体事例を交えてご紹介します。
目次
定着率とはどのような指標なのか

定着率を高める鍵はエンゲージメントにあり
定着率とは、一定期間において従業員が会社にとどまっている割合を示すものであり、企業が「人」をどれだけ尊重し、その力を継続的に発揮できる環境を整えられているかを映し出す重要な指標いえます。人材不足が深刻化するなかで、採用だけでなく「定着」をいかに実現するかが経営上の重要課題となっています。
日本公庫総研の調査によると、離職理由として最も多く挙げられるのは「賃金水準」などの金銭的要因です。しかし、賃上げだけで人材流出を防ぐことは難しく、より給与の高い企業が現れれば再び離職が起きる可能性が高いとされています。実際の離職経験者へのヒアリングでは、「話を聞いてもらえれば」「将来のビジョンが示されていれば」離職を思いとどまったという声が多く、職場環境やコミュニケーションなど金銭以外の要素が定着を左右していることが明らかになっています。
こうした非金銭的施策を支える概念が「エンゲージメント」です。エンゲージメントとは、会社への信頼や愛着、貢献意欲など、従業員と組織の心理的なつながりを指します。労働時間の適正化や評価制度の見直しといった制度面の整備に加え、上司との対話やキャリアパスの共有といった運用面の取り組みを通して、このつながりを育むことが、結果的に定着率を押し上げる力となります。
給与水準の見直しはもちろん重要ですが、それだけでは持続的な定着は実現しません。制度と運用の両面で、従業員が「ここで働き続けたい」と思える環境づくりこそが、エンゲージメントを高め、定着率の向上へとつながります。
定着率向上がもたらす恩恵とは

従業員の定着率が高い企業は、直接的なものだけでも以下のような恩恵を挙げることができます。
採用コストの低減
従業員の離職が少ないことは、欠員補充など採用コストを低減できるほか、事務処理にかかるコスト低減も決して少なくありません。
教育・研修コストの低減
新入社員教育など、会社の文化やルールなど初期教育・啓蒙にかかる時間・工数、外部研修にかかる研修費の低減が期待できます。
業務の熟練度向上
同じ従業員により業務が遂行されることで、当該業務に関するノウハウやスキルが企業には蓄積され、一人ひとりの専門性が高まり生産性向上、アウトプットの質の向上が期待できます。
チームワークの醸成
就業期間の長い従業員が増えることは、従業員同士の信頼関係や連携強化につながり、スムーズなチーム運営の実現につながります。
安定した業務運営の維持
欠員による一次的な業務の停滞、既存社員の負担増加を防止することができます。
情報漏えいの防止
故意かどうかに関わらず、退職者による企業の機密情報の漏えい防止につながります。
企業文化・ブランドの強化
定着率の高さそのものが、対外的に「良い会社である」ことをアピールすることができ、社外からの信頼性が向上、企業ブランド強化に貢献します。
このように、高い定着率は、企業成長と組織運営の安定に大きく影響し、向上したブランド力により、採用力の向上にもつながります。
定着率向上施策の成功事例
定着率向上の取り組みは、業種や企業規模によってアプローチがさまざまです。ここでは、実際に成果を上げている企業の事例を3つ紹介します。

成功事例① サイボウズ株式会社 ~制度と文化を両輪で確立~
CMでお馴染みの「kintone」やグループウェアなどを展開するサイボウズ社。かつては28%という高い離職率に悩んでいたといいますが、現在では一桁台をキープし転職市場でも有数の人気の企業として成功事例の代表格になっています。
同社は、「ウルトラワーク」という働く場所・時間とも自由な制度を導入。その運用は、「制度を活かすのは信頼と対話」と考え、過去のリモートワークを管理する姿勢を脱却、生産性を重視しています。また、制度設計では、「制度は一緒に作っていくもの」という文化が浸透、「仕事Bar」と呼ばれる飲食しながら議論する場で従業員が意欲的に設計に関わっているとか。
さらには、従業員が自身の報酬を自分で決定する制度を導入。この制度により従業員は、自己責任と納得感をもって業務に取り組む姿勢が醸成されているといいます。
成功事例② 株式会社シアンス ~ 事業転換と働き方改革で軌道修正 ~
新潟市でシステム開発やアプリ開発を行なうシアンス社。大手企業からの請負事業が中心だった同社では長時間労働が常態化しており、ある年に退職者が続出したといいます。そのため、従業員の健康と会社の発展のため労働時間削減と経営安定化を図るため改革に着手。請負中心から顧客と直接契約するWebサイト制作や首都圏企業とのニアショア開発に転換。
これにより利益率向上と残業時間の削減(月9.5時間)を両輪で成功、働きやすい環境整備によって離職率も低下させました。
採用面では、最終選考での職場体験を取り入れることでミスマッチを防止、また、多様性を重視し、県内アスリートやUIJターン人材を採用することで、社内の活性化と新しい事業・働き方の見直しにつなげているといいます。
成功事例③ 株式会社ダイワコーポレーション ~ とことん会社理解を深める ~
東京都品川区で倉庫業、運用業などを行なうダイワコーポレーション社。人材難の代表格ともいわれる物流業界で、かつては新卒の入社3年以内の離職率が業界平均以上を上回り(最大で77.8%)を記録しましたが、現在では入社3年後定着率91%を達成しているといいます。
同社の定着率向上の秘訣は「とことん会社理解を深める」ことと、以下の3つの取り組みにあります。
・若手社員が採用を担うプロジェクトの実施
・採用時から時間をかけた丁寧なコミュニケーション
・入社後の営業所などの枠を超えた社員の情報共有
その他、役職・年齢に関わらず命令口調や友だち口調を禁止し、「どんな立場でも同じ目線で仕事をしている」という意識を浸透させています。男性社会だと思われがちな業界において、女性社員の比率が30%を超えるなど、多様性を重視した職場づくりを実践している優良企業です。
定着率改善のために何をすべきか

従業員の定着率を高めるためには、採用を含めた人事制度の見直しや、職場環境・マネジメント改善など、多方面にわたる施策を複合的に実施することが効果的とされています。とはいえ、「何から手を付けるべきか分からない」と感じる方も多いのではないでしょうか。ここでは、代表的な改善施策の中から、8点をご紹介します。
- 採用段階のミスマッチ防止
定着率改善の第一歩は、入社後のミスマッチをなくすこと。自社の価値観・文化に合う人物像のプロファイルを明確にし、求める要件と実際の応募者のズレをなくします。採用選考のなかで、企業理念、自社の魅力や現在位置をできるだけ正確に伝え、将来の目標はビジョン、候補者に対する期待や業務内容・労働条件を丁寧に伝えることが大切です。 - 評価・報酬制度の確立、キャリアパスの明確化
従業員のモチベーションを維持するためには、パフォーマンスが正当に評価される仕組みが不可欠です。業務成果や業務プロセスを公正かつ透明性のある基準で評価し、評価結果を適切にフィードバックする人事評価制度を整備するのが大切です。また、業界水準に見合った競争力のある報酬体系を確立することで、人材流出抑止、採用力向上の両面で効果的です。業績に応じたインセンティブ制度なども◎です。また、社内における昇進・昇格の基準やキャリアパスを明確に示すことで、従業員のめざすべき目標を提示し、成長を実感できるようにするのも有効に定着率向上につながります。 - 働き方の多様化とワークライフバランスの推進
リモートワークやフレックスタイム制など、柔軟で多様な働き方を採用するのも定着率向上には効果的。従業員のライフスタイルに応じた業務スタイルに配慮することで、エンゲージメント向上につながります。また、長時間労働の是正や休暇取得の推進など、労働環境を改善し働きやすい環境づくりに勤しむのも大切です。 - 社内コミュニケーションの活性化
コミュニケーションを活性化することは、従業員同士の連携強化、業務の円滑化、さらには事業アイデアの創出に至るまで、あらゆるポジティブな効果が期待できます。社内横断的なイベント、メンター制度や1on1ミーティングなどを通じたソフト面の施策から、オフィス内にコミュニケーション活性化を促す仕掛けを散りばめるハード面の施策まで、多方面からのアプローチ手段があります。 - 成長支援とキャリアパスの明確化
従業員が将来のキャリアを描けるように、成長機会を提供するのも大切な企業の役割です。業務内容に応じたスキルアップ・プログラムや、資格取得支援制度など、研修制度や育成プログラム、さらには、正しいフィードバックの方法など部下育成のノウハウを提供するマネジメントスキル研修によって、管理者のマネジメントスキルを向上させるのも効果的です。 - メンター制度の整備
若年層の従業員は特に早期離職が多く、手厚いサポートが効果的です。新入社員に先輩社員がつき、メンタル面もサポートする体制を整えるとよいかもしれません。若手のみならず、メンター側の成長にもつながることも少なくありません。 - 従業員の声を反映する仕組み作り
従業員の生の声を集めることで、経営側は会社の実情を把握、従業員には当事者意識が芽生えます。定期的な面談やアンケートを通じて、従業員の意見に耳を傾けましょう。現場の声を収集したあと、目に見えるアウトプットがないとエンゲージメント低下を招く可能性があるので注意が必要です。改善活動にシフトする際には、従業員の参加を促すことで、成長機会を提供することができます。 - 福利厚生の充実
福利厚生が充実していることは、従業員だけでなく、その家族の安心材料にもなるため効果的です。育児支援、慶弔休暇・見舞金や住宅手当、健康サポート、さらには企業が奨学金の返済を支援することで、経済的負担を軽減する制度を導入する企業も。福利厚生は、必ずしも出費のともなうものである必要はありません。会社から従業員を大切に思う気持ちが重要です。自社のニーズに合った福利厚生を検討してみてください。
自社の状況に合わせて、無理のない範囲でいくつかの施策を取り入れてみてはいかがでしょうか。
まとめ

今回は、定着率向上について取り上げて解説してきました。
定着率向上施策は、あらゆる施策を整備することで、従業員の生産性・集中力向上といったポジティブな効果が期待でき、もちろん、採用面でも有利に働きます。
私たちFRSがお手伝いするのはオフィス移転やリニューアル。定着率を高める施策をより効果的にするには、「オフィス空間の整備」が一定の役割を果たすと考えています。エンゲージメントを高めるコミュニケーション施策なら、1on1に最適な場所があるとよいかもしれません。業務以外の雑談を生むエリアも求められます。そして企業文化を感じるデザインや工夫が施されたオフィスはエンゲージメントそのものを下支えします。
私たちFRSでは、エンゲージメント向上をコンセプトに掲げたオフィスデザインを手掛けるケースも多く、ノウハウを蓄積しています。運営するオフィス内装デザイン事例サイトでは、経営課題のキーワードごとにオフィス構築事例を閲覧することも可能ですので、ぜひご覧ください。
#エンゲージメント向上を目的とした内装事例(オフィス内装デザイン事例サイト「efude」)
最後までお読みいただきありがとうございました!
(著:FRS広報チーム)
参考資料
・地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集(厚生労働省)