2026年1月スタート!「取適法(旧下請法)」への改正で変わる企業取引

2026年(令和8年)1月1日より、長年企業取引の基本ルールとして運用されてきた「下請法」は、「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」へと改正・名称変更されます。

これは単なる名称変更ではありません。

「下請け=弱い立場を守る」という従来の枠組みを超え、委託・受託という対等なビジネスパートナーの関係を前提に、サプライチェーン全体の取引適正化を図るための大きな制度改正です。

今回の改正では、発注する側(委託事業者)も、仕事を受ける側(中小受託事業者)も、これまでの商習慣を見直す必要がある実務変更が数多く含まれています。

本記事では、経営者や総務・経理担当者が施行までに抑えておくべきポイントを、「法律の適用対象」という基礎から順に整理して解説します。

まず確認! この法律は「どの取引」に適用される?

「自社は中小企業だから関係ない」「大企業同士の取引だから対象外」  こうした思い込みは、今回の改正では特に注意が必要です。これまで下請法では、原則として発注側・受注側双方の「資本金規模」によって適用対象が判断されてきましたが、取適法では新たに「常時使用する従業員数」という基準も加わりました。そのため、資本金だけでは適用の有無を判断できなくなり、企業規模の捉え方が従来よりも広がっている点に注意が必要です。

法律上の立場は、次のように整理されます。

委託事業者(発注側):一定規模以上で、法の規制を受ける立場

中小受託事業者(受注側):一定規模以下で、法により保護される立場

そして重要なのが、「どんな業務を委託するか(取引類型)」によって、判定基準が異なるという点です。

① 「委託事業者」になる基準(規模の要件)

適用判定は、「資本金基準」または「従業員数基準」のどちらか一方で“規模差”が成立すれば適用されます。

例えば、以下のように「資本金」または「従業員数」のいずれか一方でも上記の表の条件を満たす“規模差”があれば適用されます。

(例)製造委託時
【資本金】委託事業者:3億円超、中小受託事業者:3億円超 ⇒ 資本金基準を満たさない
【従業員数】委託事業者:300人超、中小受託事業者:300人以下 ⇒ 従業員数基準を満たす

※資本金基準は満たしていませんが、従業員数基準を満たしているため、取適法の適用対象となります。

② 法律の対象となる取引(業務の内容)

規模要件を満たしたうえで、次の取引が対象となります。

・製造委託
・修理委託
・情報成果物作成委託(プログラム、デザイン、映像等)
・役務提供委託(運送、倉庫保管、ビルメンテナンス等)
【新設】特定運送委託
特定運送委託とは、荷主(メーカー・商社など)が自社商品の運送を運送会社に委託する取引で、これまでは下請法の対象外となっていましたが、今回の改正により新たに規制対象に加わります。物流取引を行っている企業は、特に注意が必要です。

名称変更で何が変わる?(新旧対照イメージ)

法律の名称だけでなく、ビジネスの現場で使う「呼称」も変わります。

契約書・社内規定・発注書フォーマットなどで従来の表現を使用している場合は、今後「委託事業者」「中小受託事業者(または受託者)」へ順次修正していくことが望まれます。

【最重要】ここが取引の分かれ目! 「3つの抜本的改革」

対象企業と名称を理解したところで、実務に直結する3つの最重要ポイントを解説します。これらは「知らなかった」では済まされない、コンプライアンスの核となる部分です。

① 価格決定:「言い値」から「協議」へ

改正により、受託側から価格見直しの申し出があった場合、委託側は誠実に協議に応じる義務が明確化されます。

また、取引に関する記録は、法律により作成・2年間の保存が義務付けられているため、実務上は協議の経過や結果を文書・メール等で残しておくことが強く推奨されます。

【Before】
「予算が決まっているから」「社内ルールで価格は固定」として、受託側のコスト上昇を反映せず一方的に価格を据え置くことがありました。

【After】
受託側から「原材料高騰や人件費上昇で価格見直しをお願いしたい」と申し入れがあれば、委託側は協議に誠実に応じる義務があります。

② 支払条件:「手形等」は原則禁止。支払期日は60日以内が必須

代金の支払期日は、受領日(役務は提供日)から60日以内のできる限り短い期間内に定める必要があります。約束手形など、期日までに満額の現金を受け取れない支払方法は、支払遅延として違反となる可能性が高いとされています。電子記録債権やファクタリングも、受託側が期日までに満額を現金化できる仕組みであることが前提です。

【Before】
長期の約束手形や、入金まで長い期間を要する支払条件が使われ、受託側の資金繰りが圧迫されることがありました。

【After】
支払は原則として受領(提供)から60日以内で設定します。約束手形など“実質的に現金化できない方法”は原則として認められず、電子債権等を用いる場合でも、受託側が期日までに満額を受け取れる仕組みであることが求められます。

③ コスト負担:「振込手数料」は委託側負担が原則

振込手数料を受託側に負担させ、代金から差し引く行為は、合意の有無にかかわらず「不当な減額」と判断される可能性があります。契約書に明文化されていても違反となる余地があるため、経理フローの見直しが必要です。

【Before】
取引慣行として「振込手数料は差し引いて払います」「振込は受託側で行ってください」といった取り決めが残っていました。

【After】
振込手数料は原則として委託事業者が負担する方向での見直しを行い、経理システムや支払フローを変更することが実務上必須となります。

その他、実務担当者が押さえておくべき変更点

発注内容の電子交付が原則可能に

これまで必要だった「相手方の承諾」は不要となり、メールやWebでの発注書交付が原則可能となります。ただし、発注内容(品名、数量、仕様、業務範囲、代金額、支払期日等)の明示義務は引き続き厳格に求められます。ペーパーレス化の好機として活用できますが、記録の残し方・保存方法を設計しておきましょう。

違反時のリスクはより明確に

・報復措置の禁止
通報を理由とした取引停止や数量削減などは明確に禁止されています。

・遅延利息(年率14.6%)
支払遅延や不当減額があった場合、高率の遅延利息の支払い義務が発生し得ます。減額した日から利息が発生する点にも注意が必要です。

・その他、勧告・公表・罰金等の行政措置を受けるリスクがあります。

まとめ・2026年に向けたアクションプラン

取適法への改正は、単なる規制強化ではなく、サプライチェーン全体で適正な利益を確保し、持続的に成長するための制度設計ともいえます。

今すぐ進めたい3ステップ

① 適用チェック
・自社および主要取引先について「取引類型」×「資本金」×「従業員数」で適用関係を確認。
・物流(特定運送)取引の有無を確認。

② 契約・経理の見直し
・契約書の用語修正(親事業者 → 委託事業者 等)。
・振込手数料負担、手形払いの条項見直し。
・支払サイトを60日以内に整えるための資金計画。

③ 意識改革
・現場担当者に「価格交渉(協議)の重要性」を周知。
・「値上げ相談=無視できない」という認識を社内で徹底。

施行は2026年1月1日。システム改修や契約書の更新には時間を要します。まずは総務・経理部門から現行取引の棚卸しを行うことが、最も確実な第一歩です。

本記事の内容は、公正取引委員会・中小企業庁の公式資料に基づいています。詳細や最新の運用ルールについては、以下の参考資料の出典をご参照ください。

(著:FRS広報チーム)

参考資料

・公正取引委員会(JFTC)「中小受託取引適正化法(取適法)関係」公式ウェブページ

・公正取引委員会(JFTC)「下請代金支払遅延等防止法等の一部改正に関する概要」説明資料

・中小企業庁・公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック」