運動習慣で、ウェルネスとハイパフォーマンスへ

—— 運動したいが、業務が忙しくなかなか時間が取れない
—— 体調を崩すことが増え身体の衰えを感じる

こんなお悩みを持つビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。2026年3月に発表されたスポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査」では、20〜50代の運動不足が浮き彫りになりました。特に30代女性の運動時間は週わずか30分と男性の半分に留まり、男女格差は過去最大となりました。

調査では「運動支援がある職場の従業員ほど幸福度が高い」というデータも示されています。

運動習慣は「運動=体力がつく」という次元の話ではなく、脳科学や心理学の観点からも、ビジネスパーソンにとって最強の自己投資になり得ます。

また、「従業員に対して身体を動かすよう促したいが、どのように啓発したらよいか」についてお悩みの企業も少なくないかもしれません。

本稿では、そのようなビジネスパーソンや企業のかたに向けて、運動が仕事のパフォーマンスに影響するメカニズムと、取り入れやすいメソッドを整理してご紹介していきます。

運動習慣が脳機能に与える影響

「運動した後は頭がスッキリする」。そんな実感の裏側には、実は科学的な裏付けがしっかりとあります。運動を習慣にすることで脳がどうアップデートされるのか、主なメリットを整理しました。

認知能力の向上効果

ひとつ目は、認知能力の向上。運動することで血流が良くなり、脳のエネルギー源である酸素やブドウ糖が行き渡り、認知能力が向上します。

特に無酸素運動のような高強度運動は脳の神経細胞を育て、ネットワークを強化する「BDNF(脳由来神経栄養因子)」というタンパク質を最も効率よく増やすことが分かっています。これにより新しいことを覚えたり、複雑なタスクを処理したりする能力が高まります。

メンタルのスイッチ&ストレス耐性の向上

脳のシステムには、何もしていないときの「DMN(=デフォルト・モード・ネットワーク)」と、何かに集中しているときの「CEN(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク)」という2つの対照的なシステムがあります内省機能のほか、ひらめきや創造性を司るDMNは、CENへの切り替えがうまくいかず暴走状態になると心身にあらゆる悪影響を及ぼします。

ウォーキングや筋トレなどの運動をすることで、脳は体の動きを制御したり、周囲の状況を把握したりするために、DMNからCENへとスイッチを切り替えます。これにより、DMNの過剰活動によるネガティブな考えのループが断ち切られ、脳がリフレッシュされます。また、幸福ホルモン「セロトニン」や「ドーパミン」が分泌されることで、前向きな気持ちになることができます。

さらには、定期的な運動はストレスホルモン「コルチゾール」のバランスを整え、精神的なタフさを養いレジリエンス(回復力)を高めます。

基礎代謝の向上=エネルギーレベルの底上げ

「疲れてしまうと仕事に差し支えるから、運動はしない」は実は逆。この選択は、実は基礎代謝とエネルギーレベルをさらに下げるスパイラルに陥りやすくなります。

適度な運動習慣は、基礎代謝を向上させエネルギーレベルの底上げを実現します。基礎代謝が高い状態とは、体内のエネルギー工場(ミトコンドリア)が活発に動いている状態。基礎代謝が上がると、日々の活力(エネルギーレベル)も自然と高まり、午後になってもガス欠しにくい身体が作られます。

さらに、適度な肉体疲労は深い睡眠を誘うので、翌朝の脳のパフォーマンスを最大化させます。

習慣化のコツ「If-Thenプランニング」

運動習慣を身に付けるためには、「If-Thenプランニング(もし〜したら、〜する)」という心理テクニックを使うのがオススメです。これは心理学者のピーター・ゴルウィツァーが提唱した習慣化のためのテクニックのひとつ。

私たちの脳は、「運動しよう」「本を読もう」などという漠然とした目標には反応しにくい性質があります。しかし、「特定の状況」と「行動」をセットで登録すると、脳はそれを「自動プログラム」として認識します。そのため、やるかどうかをその場で考えなくて済む(=脳のエネルギーを消費しない)ことで実行率が跳ね上がるというワケです。

研究では、一定の意志力に依存した目標を立てた場合と比べて、「If-Thenプランニング」を使った場合の目標達成率は2〜3倍に高まることが示されています。

例えば、

—— PCの電源を入れたら、スクワットをする
—— お昼休憩が終わってデスクに戻ったら、肩甲骨を回す
——
自宅の最寄り駅の改札を出たら、駅から家まで「早歩き(パワーウォーク)」で帰る

など、既存のルーティンとセットにすることで、意志の力を使わずとも継続することができます。なお、既存のルーティンは誰が見てもその瞬間だと判断できるものがトリガーとして最適です。

運動習慣のはじめの一歩(ビジネスパーソン向け)

ここからは実行編。一日を時間帯別に分け、個人で取り入れやすい3つのトレーニングプログラムをご紹介します。

朝の運動には:軽いウォーキング

朝の軽いウォーキングは、脳を覚醒させる効果(ランチ後には午後の眠気防止の効果も)が期待できます。また、歩行には、想像力を増幅させる効果が示されています。

ニューメキシコ・ハイランズ大学の研究(2017年)において、物理的な「歩く」という動作そのものが、脳への血液供給をダイレクトに増やすことが判明しています。これは、ウォーキング中の足の着地による衝撃が動脈を通じて圧力波を送り、それが脳への血流を劇的に増加させるというもの。

また、スタンフォード大学のマリリー・オペッツォ博士らの研究(2014年)によれば、着座中に比べて、歩行中の方が新しいアイデアを生み出す力(発散的思考)が高まると報告されており、歩行中は創造的な出力が平均で60%向上したという興味深いデータが。これは、歩行そのものに効果があるため、屋内か屋外かに有意な差異はなかったそうです。

日中の運動には:HIIT(ヒート)

HIIT(ヒート)とは、「High-Intensity Interval Training(高強度インターバルトレーニング)」の略称。短時間で爆発的な運動と短い休憩を繰り返すトレーニング法。短時間にも関わらず、基礎代謝・心肺機能の向上、高いダイエット効果が期待でき、忙しいビジネスパーソンやアスリートの間で近年非常に人気があります。

HIITでは、20秒間の全力運動+10秒間の休憩を1セットとして、これを複数セット(一般的には8セット=合計4分)繰り返します。この高強度トレーニングによって、身体が回復しようとして通常より多くの酸素とエネルギーを消費し続け、数時間から最大48時間(あるいはそれ以上)脂肪が燃えやすい状態が続く現象が誘発されます(アフターバーン効果(EPOC:運動後過剰酸素消費量)といいます)。

ちなみに、脳への血流を最も効率よく増やすには、全身の筋肉の7割が集まる「下半身」を動かすのが近道。スクワットで第二の心臓と呼ばれるふくらはぎと太ももを刺激することで、脳に酸素が送り込まれ、集中力が一気に高まります。

注意:高強度トレーニングの前は、数分のウォーミングアップで体を充分にほぐしてから始めましょう。身体への負荷を考慮し、週2〜3回程度の頻度で充分な効果が得られます。

就寝前の運動には:ストレッチ・ヨガ

就寝前のヨガは、「翌日の脳のOSを最適化するメンテナンス」として、パフォーマンス向上に繋がります。

●「脳のゴミ掃除システム」の最大化
睡眠中、脳内では「グリンパティック系」という脳のゴミ掃除システムが作動、日中に溜まった老廃物(アミロイドβやタウタンパク質など)を排泄しています。このシステムは主に、深い睡眠中に活発に機能します。

就寝前のヨガは深い「徐波睡眠(深いノンレム睡眠)」を増やします。ハーバード・メディカル・スクールの報告では「8週間の継続的なヨガ習慣が、入眠までの時間を短縮し、夜間の目覚めを減らす」ことが示されています。脳内の掃除がしっかり行われることで、翌朝のブレインフォグと呼ばれるスッキリしない症状に陥らず、意思決定のスピードや業務正確性が期待できます。

●自律神経の切り替え(闘争モードから回復モードへ)
現代のビジネスパーソンは、夜遅くまでPCやスマホを見ることで、交感神経(闘争モード)が優位なままベッドに入りがちです。ヨガの深い呼吸(腹式呼吸)が迷走神経(第X脳神経)を刺激することで、副交感神経(リラックスモード)へ強制的にスイッチを切り替えます。

これによりストレスホルモン(コルチゾール)の値が低下しストレス耐性が向上、翌日のトラブルに対しても冷静に対処できるようになります。

●「心理的デタッチメント」の確立
「心理的デタッチメント((PD: psychological detachment))」は仕事以外の時間に物理的にも心理的にも仕事から距離をとることで、仕事によるストレスや疲労からの回復し、パフォーマンスを維持するために不可欠な概念です。

ヨガの「ひとつひとつポーズと呼吸に集中する」姿勢は、仕事の悩みや雑念をシャットアウト儀式になります。ヨガの時間に脳が完全に仕事から解放される時間を持つことで、長期的な高い生産性を維持することできます。

運動習慣のはじめの一歩(企業運営者向け)

従業員の皆さんが、各々に運動習慣を身に付けていければ良いのですが、実際には「個人のやる気」だけに任せるのはなかなか難しいですよね。そこで、組織としてどのように背中を押し、運動のきっかけを作っていくべきか、そのヒントを探ってみましょう。

明日からでも始められる取り組みとしては、ウォーキングや、階段利用の推奨も定番で取り組みやすいアイデアです。また、昔ながらの「ラジオ体操」も身体の歪みを整え、血流を改善できる理にかなったプログラムで根強いファンを持っています。

とはいえ、これらも強制的に実施することは容易ではなく、結局は「意識の高い人だけがやる」状態になりがちです。そこで、参考にしていただけるよう、私たちFRSが実際に実施した「楽しみながら自然と体が動く」取り組み事例をご紹介します。

健康経営の一環として、社員の健康維持を目的に、万歩計アプリでグループごとの総歩数を競う「ウォーキングラリー」や、気軽に参加できる「オンライン・ヨガ教室」を実施しました。

万歩計アプリを活用したウォーキングラリー

昨夏、当グループでは「グループ会社対抗ウォーキングラリー」が開催されました。1か月弱の期間、各社従業員の総歩数の合計を競い合うプログラムで、健康促進とチームの一体感醸成を目的に、楽しみながら取り組むことができました。私たちは総歩数13,234,003歩(距離にして9,264km)、全グループ会社のうちで第2位という結果。

なかには、連日20,000歩を上回る歩数を記録するメンバーや、35,000歩を記録したメンバーも。週ごとに途中経過が公表されると参加メンバーの対抗意識が点火、翌週には大きく順位が入れ替わることもありました。

今回のウォーキングイベントの開催では、脳の活性化、ストレス軽減などのウォーキング自体の効果に加えて、期間中や途中経過の発表時など、部署や役職の垣根を越えたコミュニケーションが生まれたのが印象的でした。

FRS社内報のインタビュー記事から抜粋

イベント終了後には、グループ第2位という好成績の立役者となったメンバーへのインタビューを社内報で公開しました。こうした部署の垣根を越えたポジティブな発信は、健康意識を高めるだけでなく、社内コミュニケーションを活性化させる絶好のチャンスにもなっています。

オンライン・ヨガ教室

ハリウッドスターなど、世界中で多くの著名人に親しまれているヨガ。興味はあるものの、ウェアやマットを調達する、時間と費用、ヨガスタジオまで移動の手間…などなど少しずつハードルがあることで経験のないかたも多いのでは。

このオンライン・ヨガは、昼休みおわりの20分間、執務室、会議室、自宅のリビングなど各々の場所で、ヨガ講師指導のもと、座ったままで行なうことのできるストレッチと呼吸法を体験するプログラムです。いちばんの魅力は「手軽さ」。スタジオまで足を運ばずに、仕事の合間に、現在いる場所でプロの指導が受けられるオンライン・ヨガ教室には、予想を超える数十名の参加者が集まりました。

20分間、深い呼吸をしながら身体をほぐしてあげることで、驚きのスッキリ感が得られます。また、同じ場所でなくとも、画面越しに参加者が同じリズムで呼吸やストレッチをしていることで一体感も感じられ、心のリフレッシュにも繋がっている印象です。

まとめ

今回は運動習慣について取り上げてきました。運動を習慣化するには、とにかく始めてみることが大切。最初は、

・毎朝の出勤時、玄関で靴を履いたらスクワット×1回
・エスカレーターを見かけたら、迷わず階段の方へ足を向ける
・月に一度、会社でオンラインフィットネスの開催

など、手軽に始められることから着手してみてはいかがでしょうか。また、疲れている時ほど、敢えて運動することで代謝が回り始め、その結果エネルギーが湧いてくる、という現象を体験するとより楽しさが感じられます。重要なタスクの前の15〜20分程度の軽い有酸素運動も非常に効果的なので試してみてください。

着手したあとは、継続できるかどうか。「継続の鍵は、ハードルを下げること」です。健やかに、生産性高く働くために今日から身近なところからチャレンジしてみましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました!

(著:FRS広報チーム)

参考資料

・「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(スポーツ庁)