ブログカテゴリ: オフィス空間づくり

  • 持続可能な「働」の話。

    持続可能な「働」の話。

    コロナ禍を契機に人々があらためて向き合いはじめた「本当に大切なものとは?」という重要な問いのなかで議論されつつある「衣・食・住・働・遊」という5つの要素が併記された言葉。「衣・食・住」に加えて、

    • 生活の基礎を築くために必要な経済活動としての「働」
    • 心の平穏や豊かさを育む「遊」

    が加わったものです。過去のコラムでは、持続可能な「衣」、「食」、「住」についてお送りしてきました(同シリーズのバックナンバーは以下のリンクから)。

    持続可能な「衣」の話。 

    持続可能な「食」の話。

     持続可能な「住」の話。「ZEH」について解説します 

    「持続可能」と冠した議論において外せないのが「温室効果ガス削減」や「ゼロカーボン」などの地球環境への貢献。今回のコラムでは、FRSが生業とする「働く場における地球環境への貢献」に焦点を当ててお送りしていきます。

    どうしてゼロカーボンが必要なのか

    世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする

    発展途上国を含む全ての主要排出国(196カ国)を対象にパリ協定においてこの目標が合意され、2020年から本格運用が開始されました。そのため、温室効果ガス削減、ゼロカーボン、化石燃料の不使用など、地球環境問題の深刻化は世界的に解決すべき最優先事項として、各国でより真剣に取り組まれ始めました。

    日本の掲げる温室効果ガス削減目標数値は「2030年までに2013年度比46%の削減」というもの。

    この大きな目標を達成し、さらに2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(「2050年カーボンニュートラル」の実現)ためには、すべての産業、すべての環境で排出量を抑えていくことが不可欠です。日本の企業は、99.7%が中小企業(首相官邸による発表数値より)であり、その割合が先進国の中で圧倒的に高い国。産業界での削減目標達成は、中小企業の努力なくしてはあり得ないと言われています。

    中小企業が取り組まなければならない理由

    ゼロカーボンは、大企業にのみに課せられた義務、そんな印象を持たれているかたが少なくないと思いますが、近年様相が大きく変わってきています。その大きな要因のひとつが、2022年4月に実施された東証市場再編。

    従来、東京証券取引所には「市場第1部」、「市場第2部」、「マザーズ」、「ジャスダック」と4つに区分されていましたが、海外投資家にとって魅力的な市場への進化を遂げるために、2022年4月4日より以下の3つの市場に再分類されました。

    • (2022年4月時点)
    • プライム市場(企業数:1,841社)
    • スタンダード市場(企業数:1,477社)
    • グロース市場(企業数:459社)

    この中で最も上場基準の厳しい市場がプライム市場。当該市場では、気候変動関連の事業リスクを国際的な枠組みに沿って開示することが要請され(※1)、3月期決算企業は22年6月の株主総会後に提出するコーポレート・ガバナンス報告書から記載が必要になります(開示しない場合には、その理由の説明義務あり)。

    • ※1すべての上場企業に開示が求められていますが、プライム市場ではより厳格な基準が課されています

    これまで報告義務とされていたのは、自社が直接排出した温室効果ガスの量や削減目標だけでした。しかし、これからはサプライチェーン全体における温室効果ガス排出に関するデータの開示が必要となったのです。

    その結果、供給元で未上場の部品メーカーや町工場であっても、製造過程で排出した温室効果ガスの量を開示し、削減目標を設定しなければなりません。この潮流に乗ることのできない、または対応に大きく遅れを取った企業は、サプライチェーンから排除されていく可能性があるというわけです。

    中小企業が取り組むメリットは何か

    環境省では、中小規模事業者に向けたガイドラインを公表していますが、その中で、2050年カーボンニュートラル実現のための中小事業者が真剣に取り組むことの重要性を唱えると同時に、温室効果ガス削減のもたらすメリットについて、以下の5つのポイントを挙げています。

    ① 優位性の構築(自社の競争力を強化し、売上・受注を拡大)

    環境への意識の高い企業を中心に、サプライヤーに対して排出量の削減を求める傾向が強まりつつあり、脱炭素経営の実践は、こういった企業に対する訴求力の向上につながる

    ② 光熱費・燃料費の低減

    脱炭素経営に向けて、エネルギーを多く消費する非効率なプロセスや設備の更新を進めていく必要があり、それに伴う光熱費・燃料費の低減が期待できる

    ③ 知名度や認知度の向上

    省エネに取り組み、大幅な温室効果ガス排出量削減を達成した企業や再エネ導入を先駆的に進めた企業は、メディアへの掲載や国・自治体からの表彰対象となることを通じて、自社の知名度・認知度の向上に成功している

    ④ 脱炭素の要請に対応することによる、社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化

    気候変動という社会課題の解決に対して取り組む姿勢を示すことによって、社員の共感や信頼を獲得し、社員のモチベーションの向上に繋がる

    ⑤ 新たな機会の創出に向けた資金調達において有利に働く

    融資先の選定基準に地球温暖化への取組状況を加味し、脱炭素経営を進める企業への融資条件を優遇する取組も行われている

    上記の 5つのメリットを踏まえ、「脱炭素経営」を事業基盤の強化や新たな事業機会の創出、企業の持続可能性強化のためのツールとして認識・活用していくことが重要だといいます。

    事業者が始めるゼロカーボン

    ここでは、事業者が組織として始めるゼロカーボンの取り組みについて、3つの方法について紹介していきます。

    テレワークの推進

    テレワークは、コロナ禍が追い風となって導入に消極的だった企業でも一気に推進されていきました。特に首都圏では導入率が高く、その環境整備のための設備が大きく売り上げを伸ばしています。テレワークでは、以下の3つのポイントで環境負荷軽減効果が認められています。

    ① CO2排出削減効果

    CO2の90%以上は、ビジネスパーソンの通勤で占められているとも。世界中でテレワークを中心とした柔軟な働き方が広がると、2030年までに二酸化炭素排出を年間2億1,400万トン削減できると試算されています。

    ② 省電力効果

    「オフィスワーカーは、会社にいるときよりも自宅にいる時のほうが電力消費に対して敏感」というデータもあり、在宅ワークでは電力消費に対する意識が高まります。また、オフィス稼働減は、在宅中の消費電力増を大きく上回る省電力が期待できます。

    ③ ゴミ排出削減効果

    「在宅ワークでは、オフィスワーク時に比べて外食せずに自炊する傾向がある」と考えられています。自炊することは、包装ごみの削減効果だけでなく、オフィスで通常使用する紙コップや割り箸の使用削減も大きな効果を発揮すると考えられます。

    ペーパーレス化の推進

    ペーパーレス化の推進は、テレワークとの親和性も高く柔軟な働き方も後押しする環境負荷低減に貢献する取り組みです。

    ①用紙・印刷のコスト削減

    もっともよく知られている効果が、紙の使用量削減と印刷コストの圧縮です。このことは地球環境保護に大きく貢献します。

    ②保存コストの圧縮~賃料コストの圧縮

    紙資料を保存するキャビネットのオフィス全体面積に占める割合は少なくありません。また、個人のデスクワゴンに収納していた紙資料もなくすことができれば、ワゴンも不要に。従来、オフィス面積は従業員数に応じて確保するのが一般的でしたが、フリーアドレス化することで面積低減が可能。このことは、固定費の圧縮効果だけでなく、空調使用量低減に。省エネルギー効果が期待できます。

    ペーパーレス化のもたらすメリットは大きく、単純な資源利用の圧縮だけには留まりません。以下の効果も期待できます。

    ・情報の検索性・携帯性の向上

    「紙の資料を探すために費やす時間が膨大」という組織は未だ少なくないのでは。IoT技術の導入によって大部分はカットできたとしても、手作業が必ず介在するもの。しかし、電子データ化すれば検索性は飛躍的にUPします。また、紙で持ち運ぶことのできる資料の量には、限界がありますが、データには物理的な限界はほぼありません。

    ・情報セキュリティとBCP対策

    紙の資料の存在は、盗難や紛失のリスクが付きまといますが、データ化することで抑止することができます。また、オフィスが何らかの災害に遭った場合でも、クラウド環境になっている場合であれば、外部からもデータにアクセスすることができ、業務復旧までのスピードを飛躍的に高めます。

    環境配慮型製品という選択肢

    オフィスを造っていく過程は、スクラップ&ビルドの連続です。「循環経済」(「サーキュラー・エコノミー」とも呼ばれます)を実現していくため、オフィス空間を造る、またはオフィス家具類を新調する際に「環境配慮型製品」を検討してみてはいかがでしょうか。

    ① 国産木材、端材・間伐材を活用した製品

    例えば、「自然環境・地球環境の保全、地域活性化に貢献する製品を選ぶ」という選択肢。購入者には森林環境に寄与したことが証明される「植樹証明書」が発行される製品もあります。

    シェルフやデスクに、国産杉の製材時の端材を活用

    ② 低環境負荷製品

    例えば、「環境負荷の少ない廃材を原材料にした家具を選ぶ」という選択肢。

    廃棄衣料品などを使用したシェルフ。使用後も再々生可能

    珈琲店の使用済カップや豆カスなどを原材料とする内装ボード

    リサイクルされた漁網などを原材料としたチェア

    ③ 製品ライフサイクル上のCO2を削減した製品

    例えば、「製造工程のCO2排出量削減を実現した製品を選ぶ」という選択肢。

    原材料調達から廃棄等まで100%カーボン・オフセットしたチェア

    オフィスがこれらの家具や内装材で構成されていることは、従業員の環境問題を考えるきっかけにもなり、会社への共感や信頼が生まれると、エンゲージメントを向上させることにもつながります。また、来訪者との話題にもなり良い印象を与えてくれます。

    まとめ

    今回は、「働く場」に焦点を当て、持続可能な「働」についてお送りしてきました。読者の方々が、事業者として取り組みやすいことが見付けられたら幸いです。

    FRSでは、企業の成長を支えるオフィスパッケージ「エコワク」を、近日リリース予定です。スクラップ&ビルドが慣例のオフィス造りで求められるのは、環境負荷低減への取り組み。内装材、什器の各メーカーから多くの環境配慮型製品がリリースされていますが、情報を整理しながら環境にやさしい理想のオフィスを完成させるのは、時間と手間を要します。「エコワク」は、オフィス構築時の環境負荷低減と働く場の在り方を考え、最適化したオフィス空間づくりを実現する取り組みです。

    事業者としての取り組みについてなど、より詳しいことを知りたい、オフィス造りについて具体的にアドバイスが欲しいなどございましたら、ご遠慮なくお問い合わせください。

    最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

    (著:FRS広報チーム)

    参考資料

    ・脱炭素社会・循環経済

    ・分散型社会への3つの移行(環境省)

     ・中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック(環境省)

     ・「TCFD提言に沿った情報開示の実態調査」の公表について(日本取引所グループ)