
情報化社会への移行に伴い、都市にとって自然が遠い存在になりつつあります。特に東京中心部のオフィスビルなどでは、自然に触れる機会が皆無だ、という人もいるかもしれません。ところが近年、オフィスビルや複合施設の都市計画においては、自然環境との調和を目指して開発される動きが目立っています。また、ワークスペースに自然をとりいれるという企業も増えてきています。
都市において自然と共生することは容易ではありませんが、自然の要素を取り入れることで、人工的な環境でも自然の存在を感じることができます。こうして誕生したのが、建築やオフィスデザインに自然を取り入れようとする「バイオフィリックデザイン」。
バイオフィリックデザインは、人間と自然のつながりを回復するための重要な役割を果たすと考えられており、アメリカではAmazon本社やGoogle本社が、このデザイン手法を取り入れている代表的な事例といわれています。
近年さかんに議論され、官公庁からも推奨されている「ウェルビーイング(※1)」にも繋がることから、バイオフィリックデザインは、都市計画やワークスペースの環境設計に取り入れられることが徐々に一般化してきました。
※1 ウェルビーイングは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念(厚生労働省)
このブログでは、バイオフィリックデザインについて整理していきます。
バイオフィリックデザインとは

バイオフィリックデザイン(Biophilic Design)とは、建築や都市デザインにおいて、人間が自然とつながりを感じられるような空間を設計する手法。これは、人間は生物学的にも心理的にも自然とのつながりを必要としているという「バイオフィリア仮説」に基づいています。
バイオフィリア仮説とは
バイオフィリア(Biophilia)とは、bio(生命・自然)とphilia(愛)からなる造語で、1984年にアメリカの生物学者であるエドワード・O・ウィルソンによって提唱されました。
ウィルソン氏は、人間が進化してきた環境は、生物多様性に富んだ自然環境であり、人間は自然とつながりを感じることによって、安心感や幸福感を得られるように遺伝的にプログラムされていると論じています。このバイオフィリア仮説を支持する証拠は、様々な研究から示されています。
・自然の中で過ごすことで、ストレスが軽減され集中力や創造性が高まる
・自然を眺めるだけで、心拍数や血圧が下がりリラックス効果がある
・子供は、自然の中で遊ぶことで健康的な発育を促進する
バイオフィリア仮説は、人間が自然とつながりを感じることが、健康や幸福にとってだけでなく、社会や環境にとっても重要な意味を持つことを示唆しています。
バイオフィリックデザインの効果

自然が人の心身にもたらす影響や、自然の要素をオフィス空間に取り入れる効果について、多くの研究機関が調査結果を公表しています。そのなかでもっとも有名な研究成果のひとつが、ランカスター大学のケイリー・クーパー博士とロバートソン・クーパー社が発表した「世界中の職場におけるバイオフィリックデザインの効果」。
世界16か国、7,600人のオフィスワーカーを対象にした調査で、自然の要素が多いオフィスでは、自然がないオフィスよりも従業員の幸福度が最大15%、生産性が6%、創造性が15%高いという結果が得られたのです。
また、国内官公庁の研究結果でも、以下の研究結果が報告されています。
・森林を眺めたり、自然を感じる環境下では、都市環境と比べて森林環境のほうがリラックス状態になりストレス軽減効果がある(環境省)
・植物がないオフィスに比べ、植物があるオフィスではストレス軽減効果が認められた(国土交通省)
これらの結果からも、ストレスが少なく生産性が高いオフィス空間の実現には、自然の要素が重要であることが分かりました。その他の研究成果からも、バイオフィリックデザインには以下のような効果が認められました。
健康面 : ストレス軽減、集中力向上、睡眠改善、免疫力向上など
生産性 : 仕事や学習の効率向上、創造性向上など
快適性 : 居心地の良さ、リラックス効果など
環境面 : 省エネルギー、資源節約など
オフィス内で自然とのつながりを感じられる場合、従業員はより多く「やる気」や「幸せ」を感じる傾向にあります。従業員の幸福度の高まりは、会社への帰属意識や、仕事へのモチベーションをもたらします。まさに、ウェルビーイングな環境。
リラックスできる環境で意欲的に取り組むことで、生産性の向上と、思考の柔軟性をもたらします。このことによって、新しい事業アイデアが生み出される可能性が高まります。
さらには、ワークプレイスの空気の良さが従業員同士のコミュニケーション活性化を促すため、発案された新しい事業アイデアについて活発な意見交換がなされ、よりブラッシュアップされた事業企画になったり、創造性がより高まったりすることも期待できます。
このように、バイオフィリックデザインが効果的に施されたオフィス空間は、ウェルビーイングな空間として従業員に歓迎されるだけでなく、事業発展の場として一役買ってくれるかもしれません。
また、昨今の採用難のなか、ライバル企業よりアタマひとつ抜け出す好材料にも。会社を訪れたときに目の当たりにする従業員が生き生きと働いている姿は、候補者への最大の動機付けとして機能してくれるはずです。
バイオフィリックな空間のつくりかた

これまでのように、ヒトによい影響をもたらすバイオフィリックデザインは、すでに様々な場所・空間で採用されています。
オフィス : 観葉植物や自然光を取り入れる、自然素材を使った家具を使用するなど
学校 : 屋外学習スペースを充実させる、自然をモチーフにした内装にするなど
病院 : 自然を眺められる窓を設置する、緑豊かな庭園を造るなど
住宅 : 自然素材を使った家づくり、中庭やテラスを設けるなど
次に、自然を感じるオフィス空間づくりのヒントや、注意したいポイントなどをご紹介します。
●自然素材を取り入れる
観葉植物を配置するだけでなく、フローリングやオフィス家具に木材などの自然素材を取り入れるのも有効です。木材は紫外線を吸収するため目にやさしく、独特のさわり心地はストレスを生じにくくさせるなど、五感にもたらす良い作用が認められています。
さらに、木材のリラックス効果により、木材を内装に使用した部屋では知的生産性が向上することが分かっています。また、適度な湿度を維持する調湿作用や、衝撃に強いのも木材の特長です。
●自然を感じさせる「香り」や「音」を取り入れる
自然とのつながりを得られるのは視覚だけではなく、嗅覚や聴覚からの刺激も効果的。ロバートソン・クーパー社の研究では、屋外を連想させるような音や香り、質感はストレスからの心理的回復速度を早める可能性があるという調査結果を紹介しています(注:特定の音や香りが苦手な従業員がいる可能性を考慮し、よく聞き取りをしたうえで実施してください)。
●最適な緑視率を保つ
緑視率とは、人の目に見える緑の割合をさします。オフィスに緑の量が多すぎると、かえって知的生産性や満足度が低下する可能性があるそうなので要注意。緑視率を適度に高めることで、安らぎを感じやすくなります。ある研究成果では、最適な緑視率は10~15%と公表されています。参考にしてみてください。
●効果的な空間を演出する
適当に観葉植物を配置するのではなく、より自然を感じられるような植栽方法や、見え方を工夫するのも大切。光によって自然環境を演出する装置や、観葉植物を配置しやすいデザインの家具も各メーカーから販売されています。それらを活用することで、より高い効果が期待できそうです。
●メンテナンスも考慮する
観葉植物を設置する場合は、メンテナンスのことも考慮しましょう。日々の水やりや掃除に加え、土壌の交換なども大切。美観や衛生面から周辺の清掃も欠かせません。水やり、栄養管理などは時期によって調整するのが植物を長持ちさせるコツ。メンテナンスが難しい場合には、人工観葉植物やレンタルグリーンを採用するのもひとつの方法です。
まとめ

今回は、バイオフィリックデザインについて整理しました。
自然を感じることができるオフィス空間では、ストレス軽減や集中力向上、リラックス効果による生産性向上やコミュニケーション活性化が期待できます。効果的に活用することで、ウェルビーイングな環境の実現と、事業拡大を両立させることができるかもしれません。
当社では、バイオフィリックデザインを効果的に取り入れたオフィス環境づくりの実績も豊富です。まずはお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
(著:FRS広報チーム)