
異常気象、海面の上昇や生態系の破壊など、地球温暖化によって深刻な問題が引き起こされていることは、もはや世界の常識。温暖化の進行を少しでも遅らせることは、地球にとって最優先事項です。このことは、温暖化要因の大部分を占める先進国のみならず、世界人口約81億人の誰ひとりとして例外ではありません。
そして、2011年の東日本大震災での電力需給のひっ迫や、さまざまな国際情勢の影響によるエネルギー価格の不安定化などの経験から、建築物のエネルギー自給の必要性が強く認識されはじめました。
これらの背景から、オフィスビルでは、室内外の環境品質を低下させることなく、大幅な省エネルギーを実現する「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」に注目が集まっています。
本稿では、オフィスビルにおける温暖化対策のひとつ「ZEB」について、学んでいきたいと思います。
地球温暖化対策にオフィスビルが果たすべき役割
日本政府は、「第4次エネルギー基本計画(2014年4月閣議決定)」において、「建築物については、2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEBの実現を目指す」とする政策目標を公表しています。環境省、国土交通省、経済産業省など、各省庁が横断的にZEB推進に向けて取り組んできました。
ZEBとは
ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることをめざした建物のこと。「ゼブ」と発音します。略称から消えてしまっているNetは「実質的に」の意味で用いられています。
そもそもビルと呼ばれる種類の建物は、その中で人が活動することを想定して建てられているため、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできません。しかし、省エネによって消費エネルギーを減らし、創エネによって使う分のエネルギーをつくることができれば、エネルギー消費量を実質的にゼロにすることができます。

ZEBのコンセプトは、2000年代初頭に欧米で提唱された「ゼロ・エネルギー・ビル」が起源とされ、その後、各国で独自の基準や制度を設け、ZEBの普及を推進してきました。日本におけるZEBの定義は、
先進的な建築設計によるエネルギー負荷の抑制やパッシブ技術の採用による自然エネルギーの積極的な活用、高効率な設備システムの導入等により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、エネルギー自立度を極力高め、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることをめざした建築物(環境省公開資料より)
としています。
ZEBの4段階分類
温暖化対策に貢献するZEBを実現するには、決して低くはない数値目標を達成していく必要があります。そのため、達成状況に応じて定性的・定量的に以下の4段階に分類されています。

ZEB | : | 省エネにより50%以上削減+創エネで、実際のエネルギー消費量が0%以下まで削減した建物 |
Nearly ZEB | : | 省エネにより50%以上削減+創エネで、実際のエネルギー消費量が25%以下まで削減した建物 |
ZEB Ready | : | 省エネにより50%以上削減で、実際のエネルギー消費量が50%以下まで削減した建物 |
ZEB Oriented | : | 延べ面積10,000㎡以上の建築物を対象に、用途ごとに限定した削減量+未評価技術の導入によるさらなる省エネを実現した建物 |
延べ面積10,000㎡以上の建築物は、年間新築着工数のうち1%程度(棟数ベース)ですが、エネルギー消費量ベースでは36%程度と、新築建築物全体のエネルギー消費量に与える影響が大きいことから、エネルギー基本計画で設定した2030年目標を達成するためには、延べ面積10,000㎡以上の建築物におけるZEB化の実現・普及は重要です。
そこで、延べ面積10,000㎡以上の建築物を対象として追加されたのが「ZEB Oriented」。従来は建築物全体(非住宅部分)で評価されていた複数用途建築物について、建築物(非住宅部分)のうち一部の建物用途においても評価可能となるようZEBの評価方法が拡充されました。
フォーバル東北支社の事例紹介

2024年4月に竣工したフォーバル東北支社の新社屋は、地球環境保護に貢献するため、省エネ性能、創エネ性能を備えた環境配慮型のオフィスビルです。4段階のZEBの基準のうち「Nearly ZEB」認証を取得、優れた省エネルギー性能が認められています。
詳しくは、以下の画像下部のリンクからご参照ください。

環境性能評価システム

環境性能評価のシステムには、自己評価制度と第三者評価制度があります。信頼性がより高いのは、客観的に第三者が評価するシステム。代表的な認証には、BELS、グリーンビルディング認証、CASBEEシステムなどがあります。
BELS
BELS(Building Energy Labeling System)は、建築物省エネルギー性能表示制度のことで、国土交通省が主導する建築物の省エネルギー性能に特化した第三者評価機関による認証制度。5段階の星印によってその性能が示されます。ZEB・ZEHは、BELSの上位互換。最高ランクの5つ星の評価を得たうえで、さらに省エネルギー性能に優れた建築物について、ビルや工場、学校といった大型の建物は「ZEB」、住宅は「ZEH(ゼッチ)」として認証されます。
DBJ Green Building認証
環境・社会への配慮がなされた不動産(「Green Building」)を支援するために、2011年4月に日本政策投資銀行(DBJ)により創設された認証制度。グリーンビルディング認証を取得することによって、環境や社会に配慮した不動産(ビル)であることを訴求することができ、「ESG投資(※2)」を呼び込むことにも貢献すると期待されています。
CASBEEシステム(建築)
CASBEE(Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency)は、新築の建築物を対象として、エネルギー効率、地球環境への配慮、居住者の快適性などについて、設計段階、完成直後の環境性能を総合的に評価します。
ZEB化のメリットとは
地球環境に貢献するZEB化には、多くのクリアすべき指標があることが分かりました。そのハードルを越えた先には何があるのでしょうか。環境省では、ステークホルダー別に以下のような表でそのメリットを整理しています。

このブログでは、オフィスビルのZEB化にフォーカスし、オーナー(貸主)、テナント(借主)のそれぞれのメリットを丁寧に整理してみます。
ビルオーナーがZEB化するメリット
ZEB化には、省エネ・創エネの双方の設備を擁する必要があるため、ビルオーナーにとって少なくない投資・労力をともないますが、地球環境への貢献することはもちろんのこと、事業にも多くのメリットをもたらします。
① 光熱費の削減効果
ZEB化のためには、建物全体の断熱性能を高め、高効率な設備を導入することで省エネをめざします。また、必要なエネルギーを太陽光などで補うために、大幅な光熱費削減効果をもたらします。
② 建物の資産価値向上
ZEB化することは、建物の環境性能を向上させるだけでなく、快適な室内環境を実現することにもつながります。このことは、近隣相場よりも賃料を上げるための充分な理由となり得ます。また、ESG経営(※2)が重要視される現代において、環境や社会に配慮したオフィスビルは魅力的な建物になるため、空室率の削減効果も期待できます。
※2 ESGとは、Environment(環境)、 Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3つの単語の頭文字から成る用語。環境や社会に対して配慮し、適切なガバナンス(企業当時)を行い、企業が持続的に成長・発展することを目指す経営スタイルのこと
③ 事業継続リスクの低減
ZEB化のための省エネ、太陽光発電などの創エネは、有事の際に電力供給不足に陥った場合の、事業継続リスクを大きく低減させることができます。
④ 企業のブランドイメージ向上
オフィスビルのZEB化に二の足を踏んでいるビルオーナーは少なくありません。それだけに、ZEB化に先鞭をつけたオーナーは、環境意識の高さを広く示すことができるため、大きなブランディング効果が期待できます。
⑤ その他
ZEB化は、国も推奨する温暖化対策の重要な手段です。そのため、環境省、経済産業省、国土交通省など各省庁で補助金、支援事業。税制優遇措置などが行なわれています。
ZEB化されたオフィスビルに入居するメリット
次に、テナント側をみていきます。ZEB化されたオフィスビルでは、近隣相場よりも賃料が高めに設定されている場合も少なくありませんが、その投資に見合う充分な価値が期待できます。
① 光熱費の削減効果
ZEB化のためには、建物全体の断熱性能を高め、高効率な設備を導入することで省エネをめざします。また、必要なエネルギーを太陽光などで補います。そのため、ビルオーナー同様に大幅な光熱費削減効果が期待できます。
② 快適な室内環境
ZEB化された建物では、室温や湿度を一定に保ちやすく、快適な室内環境を実現できます。快適な空間を実現するオフィスへの入居は、生産性の向上や従業員の満足度を高める効果が期待できます。
③ BCP対策
ZEB化された建物の省エネ設備、太陽光発電設備は、有事の際の停電リスクや、電力供給不足に陥った場合の事業継続リスクを大きく低減させることができるため、BCP対策(事業継続計画)の強化にも貢献します。
④ 企業のブランドイメージ向上
ZEB化されたビルを選ぶことは、環境への配慮を示すことになり、企業ブランドイメージの向上につながります。従業員の誇りとなって帰属意識の高まりが期待できたり、顧客・投資家からも高い評価を得られそうです。
まとめ

今回は、地球環境に貢献するZEBについて整理しました。
企業が持続的に成長・発展することを目指すESG経営に社会の注目が集まる昨今、オフィスビルのZEB化は、環境への配慮に加え働く環境の質の向上にも繋がり、ESG経営の推進において有効な施策の一つとも言えます。
FRSは、オフィスづくりにおいて環境や働き方に配慮し、お客様に寄り添ったご提案をいたします。ZEB化されたオフィスビルや、ESG経営を意識した環境配慮型のオフィスづくりについて情報収集したいかたは、お気軽に当社までお問い合わせください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
(著:FRS広報チーム)