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  • 「木造・木質化オフィスビル」とはいったい?

    「木造・木質化オフィスビル」とはいったい?

    ここ数年、オフィスビル・マーケットでにわかに盛り上がりつつある建築構造に関する取り組みがあります。それは、

    木造・木質化オフィスビル

    というもの。オフィスビルの構造体や内装、外装等に木材を用いる事例が増えてきているというのです。

    —— 木造のビルなんて、戦前の話じゃないのか
    —— ビルといえば、鉄骨やコンクリートでしょう

    そんな声が聞こえてきそうです。

    木造のオフィスビルなんて現実的なのでしょうか。2階建て、3階建てでは、集積率の高い都心に乱立したら、それこそオフィス難民で溢れかえってしまいそうです。

    どうやら、これも「循環型社会」、「脱炭素」に向けた取り組みの一環らしいのです。しかもこの取り組みは、ビルオーナー、借り主、地球環境にとって三方良しだというではありませんか。

    今回のコラムでは、そんな「木造・木質化オフィスビル」という取り組みについて、調査していきたいと思います。ぜひ最後までお付き合いください。

    なぜ木造・木質化オフィスビルなのか

    はじめに、オフィスビルの木造・木質化の背景について、整理していきたいと思います。

    背景1 循環型社会へ

    オフィスの木質化の取組は、単に一企業の利益にとどまらず、採算がとれないなどの理由で放置され、少子高齢化と揶揄されるような不健全な状況となっている日本の人工林の現状を改善することにも貢献します。
    日本の国土の7割が森林です。そのうち、人が植えて育ててきた人工林が約1千万ヘクタールとなっており、伐採の適齢期のものが次第に増加しています。このような人工林が計画的に伐採され、様々な木材製品として有効に使われることによって、得られた利益が森林地域に還元されれば、持続的で健全な森づくりを進めていくことが可能となります。

    (「公益社団法人国土緑化推進機構」オフィシャルWebサイトより)

    「林」の木々には、伐採する適齢期があるということですね。

    森林には水資源を蓄え洪水や土砂くずれを防いだり、動物や植物をまもり生態系を維持する重要な役割がありますが、森林が健全に保たれてこそ、その役割を発揮します。そのためには人の手による適切な管理が欠かせません。そこで重要なのは伐採です。間伐材を上手に活用していき、「使う→植える→育てる」という健全なサイクルを維持していくことが、循環型の社会へとつながっていきます。

    国土交通省Webサイトより(林野庁資料を基に作成)

    林業の世界では、“林業は間伐にあり”と言われるほど、間伐は重要なのだとか。もっとも効率良く太陽の光が差し込むためには、どの木を伐採するのが最適かを判断するのは、長年の経験と高度な技術を要するのだそうです。林業とは想像よりもずっと奥深いですね…

    背景2 地球温暖化抑止への貢献

    木造・木質化オフィスの目的は、循環型社会の実現を目指しているためだけではありません。もうひとつの大きな目的は、地球温暖化抑止への貢献。木材は、鉄などの資材に比べて製造や加工、建築時に要するエネルギーが少ないため、製造・加工時や建築時の二酸化炭素の排出量が抑制できるのだそう。

    それから、循環型社会の実現とも共通しますが、鉄や石油などの鉱物資源は採掘量が有限であるのに対して、木質資源は伐採して使用しても、その後に新しい苗木を植えておけば、30~50年で再び材料やエネルギー源などの資源として使えるように成長してくれます。鉱物資源の利用を低減できるという部分でも、この取り組みの意義は大きいといいます。

    補足として、木材自給率は2010年以降9年連続で上昇しました(2019年までのデータ)。自給率が20%を下回ったときに、国を挙げて自給率の改善に取り組んだ結果、改善されたのだとか。以下のグラフがその推移を示しています。

    木材供給量及び木材自給率の推移(林野庁)

    オフィスビルの木造化を掘り下げてみる

    大林組OY Project公式Webサイトより

    最初にオフィスビルを木造化していくメリットについて、「ビルオーナー」、「オフィスの利用者」それぞれの立場から整理していきます。

    ビルオーナーのメリットは何か

    木材は、衝撃に強い

    木材は弾性に優れているため、衝撃エネルギーは消費され、跳ね返ってくる力は衝撃力よりも弱くなります。

    木造化すると、長持ちする

    (腐朽、シロアリなどの生物劣化や、雨水や太陽光等による気象劣化から木材を守ることができれば)木造建築物が長持ちすることは、法隆寺などの歴史的建造物が証明しています。また、木造住宅においてはすでに、住環境を担保しつつも100年以上の耐久性を持たせる技術が確立されています。

    木造化すると、コストメリットが期待できる

    木材は、鉄などの資材に比べて製造や加工に要するエネルギーが少なくてすみます。このことは、建築コストの低減に貢献してくれます。

    オフィスの利用者(入居者や来場者)のメリットは?

    木材は、五感に良い作用をもたらす

    木材の匂いは、リラックス効果があるのはもちろんのこと、血圧の低下や心拍数の正常化効果や、免疫力UPが期待できるそう。そのあたたかな質感は、快適な空間だと感じることが報告されているとか。また、触れた際に感じるその質感が、人体へのストレスを感じさせにくいことも明らかになってきています。

    木材は、知的生産性に良い影響がある

    科学的データによる木材・木造建築物のQ&A(林野庁)

    こちらのグラフにあるように、木質化された空間での作業効率をタイピング作業で比較した実験では、約2割作業成績が向上したという報告があります。

    木材は、湿度を調節してくれる

    木は、周囲の温度や湿度の変化に合わせて空気中の水分を放出したり吸収したりします。この木材の「吸放湿作用」が室内空間の湿度をある程度一定に保ってくれることによって、過ごしやすい環境づくりが可能になります。また、湿度を保つことでハウスダストの原因となるダニや細菌の生存がしにくい環境にも!空調の稼働率を低減することで、コストメリットを得られる可能性も。

    木材は、消臭・抗菌効果を発揮してくれる

    木材には、悪臭や大気汚染物質を除去する空気浄化作用が確認されています。また、木材から調製された精油には、二酸化窒素などの大気汚染物質の除去作用もあります。精油などには低分子化合物が含まれており、それにより抗菌効果がもたらされます。また、木材の匂い成分によるダニなどの防除効果も期待できます。

    オフィスビル木造化の課題は何か

    とはいえ、メリットばかりが提示されると、逆に不安になってしまいますよね。ひょっとして、木造建造物は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造に比べてリスクがあるのでは…と疑ってしまいます。そこで、建築にとって重要な、耐火性能、耐震性能の点を調査してみました。

    火災安全性は問題ないの?

    ゆっくり燃える木の特性を生かした木造の準耐火構造技術の開発・普及は、木造建築の実現拡大に寄与し、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と同等の火災安全性が確保できるようになってきているとか。最近では、被覆型による2時間耐火構造部材が開発され、国土交通大臣認定を取得したそうです。これを使えば、耐火性能上は、14階建ての木造建築物が実現できるそうです!

    一般社団法人木を活かす建築推進協議会Webサイトより

    耐震性能は備わっているの?

    建築基準法に定められている耐震性能レベルは、じつは構造種別に関わらず同じ!なので、基準にしたがって建てられた建築物は、木造でも鉄筋コンクリート造や鉄骨造と同等の耐震性能をもっています。

    参考までに、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造の床単位面積当たりの重量比の定めは、概ね以下のとおりです。

    木造:鉄骨造:鉄筋コンクリート造 = 1:2:4

    オフィスビル木造化の事例

    ここまで、オフィスビル木造・木質化の背景やメリットなどを整理してきましたが、実際に建築が進んでいるビルや稼働しているプロジェクトがないと、いまひとつ現実味が湧かないですよね。

    ということで、いくつかのプロジェクトをまとめてご紹介していきます!

    国内最大最高層の木造賃貸オフィスビル計画(三井不動産×竹中工務店)

    三井不動産プレスリリースより

    「終わらない森創り」をテーマに森林を保有し持続可能な森林経営を実施する三井不動産グループが、保有森林の木材を使用し持続可能な社会の実現に貢献するべく、中央区日本橋本町に、2023 年着工・2025 年竣工を目指して計画しています。木造ならではのぬくもりとやすらぎを与え、日本における都心での街づくりへの新たな価値創造や景観を生み出す魅力あふれる場となることが期待されます。

    HULIC &New GINZA 8(ヒューリック×竹中工務店)

    ヒューリックWebサイトより

    日本初の耐火木造12階建てビルとして注目を集めている2021年10月に竣工した商業ビル。2018年以降、環境問題への貢献と、オフィスワーカーのウェルネス促進の考えから、木造建築への取り組みを強化したヒューリック社。「都心で木材を使うことには意義がある」との考えからこの地に建設を決定されたとか。ファサード(外観)デザインは隈研吾建築都市設計事務所が担当。コンセプトは「銀座に森を出現させる」というもの。壮大です。

    木造ハイブリット構造の賃貸オフィスビル計画(第一生命×清水建設)

    清水建設プレスリリースより

    国産森林資源の循環利用と地域創生・活性化への貢献、施設利用者のQOL(※1)向上、健康経営への寄与を目的として清水建設の手により建設予定。主要な構造材に清水建設の独自技術を採用予定だとか。同規模の鉄骨造の賃貸オフィスビルと比べて、建設時のCO₂排出量を20%以上削減できる見込だそう。中央区京橋に計画されています。

    • ※1“Quality Of Life”の略。物理的な豊かさだけでなく、精神面を含めた豊かさを意味します

    (仮称)道玄坂一丁目計画(東急不動産×前田建設工業)

    東急不動産プレスリリースより

    2022年竣工が予定されている、鉄骨造&木造のハイブリッド構造で建築予定の13階建オフィスビル。外部からよく目立つファサード2面には、格子状に木・鉄骨のハイブリッド耐震システムを国内で初めて採用しているそうです。上階の柱梁には、木質ハイブリッド集成材を使用することで、建物内外から木材の温もりを感じられるように設計されています。

    「OY Project」(大林組)

    大林組OY Project公式Webサイトより

    2022年3月の完成を目指して絶賛建設中の「OYプロジェクト」は、神奈川県横浜市に建設中の大林組の次世代型研修施設で、木造の柱・梁として世界初の3時間耐火を取得した「オメガウッド(耐火)」を用いた地上11階建ての建造物。木を活かした自然を取り込むデザインが特徴的で、コミュニケーションを誘発し、イノベーションの促進や企業文化の醸成を図り、これからの知を育む大林組の新たな拠点となります。

    H¹O 外苑前(野村不動産×熊谷組×住友林業)

    野村不動産プレスリリースより

    同社が展開する従業員10名未満の小規模向けオフィスシリーズ「H¹O(エイチワンオー)」。H¹O外苑前は、2022年8月竣工予定の、地上7階建ての木造ハイブリッド構造を採用したオフィスビル。多摩産の木材を使用した循環型社会への貢献、そしてリラクゼーション効果や知的生産性の向上等、そこで働く人々の「個」 のパフォーマンスを最大化し、快適で心地よい空間を提供したいと考えているそう。

    まとめ

    今回は、オフィスビル木造・木質化について整理してきました。循環型社会の推進や、地球温暖化などの課題解決のために、これからも盛り上がってほしい取り組みですね。注視していきたいと思います。

    オフィスの内装デザインを手掛けているFRSでは、「オフィス内装の木質化」もご提案可能です。そのあたりの内容は、今後のコラムにてご紹介させていただきます。

    「森」と「林」の違いについて

    最後に、「森」と「林」の違いについて解説していきます(メールマガジン読者の皆さん、お待たせしました!)

    農林水産省では、その違いが明確に定義されています。

    「森」は、“盛り”が語源。盛り上がった土地に自然に生えた木々の集まりの意味。「山」に近い。

    「林」は、“生やす”が語源。人の手で生やした木々の集まりの意味。

    というのが正式な整理だそうです。しかし、戦時中の木材の需要増加や、紙の多量消費によって森からの木々の伐採がハイペースで進み、代わりに人の手によって植えられた林が存在感を増していったことで、その境目は徐々に不明瞭になっていたそう。たしかに、「原生林」とか「人工林」という言葉もありますね…。では、「森林」とはいったい何なのか?については、またの機会に…

    最後まで読んでいただきありがとうございました!

    (著:FRS広報チーム)

    参考資料

    ・木材供給量及び木材自給率の推移(林野庁) 

    ・木造建築物の振興施策について(国土交通省) 

    ・科学的データによる、億財・木造建築物のQ&A(林野庁) 

    ・HULIC &New GINZA 8(ヒューリック) 

    ・HULIC &New GINZA 8(竹中工務店) 

    ・日本橋にて国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル計画検討に着手(三井不動産) 

    ・京橋における木造ハイブリッド構造の賃貸オフィスビルの計画検討着手について(清水建設) 

    ・国土交通省の「令和 2 年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に『(仮称)道玄坂一丁目計画』が採択 

    ・OY Project 日本初の高層純木造耐火建築物(大林組) 

    ・中高層オフィスビル主要構造部に「木造ハイブリッド構造」採用(野村不動産)