
持続可能な社会の実現のために掲げられたSDGs(Sustainable Development Goals)。気候変動、格差の拡大の是正のため、国連加盟193ヵ国の全会一致で採択されたのは2015年。用語として浸透したのは最近の出来事のようにも思えますが、すでに8年が経過したわけです。
SDGsで掲げられている17の目標のなかでも、特に重要視されているもののひとつが、気候変動の問題。あらゆる産業・領域で脱炭素・省エネルギーが推奨されていますが、その達成難易度は極めて高いといえます。

そのような状況下、オフィスビルではどのような対策を検討するべきなのでしょうか。
そのひとつの指標として、「環境性能評価」と呼ばれる基準が設けられています。今回のコラムでは、オフィスビルにおける「環境性能評価」について整理したいと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。
環境性能評価の意義とは
一般に、CO2排出量の多い産業として想起されがちなのは製造工場や運輸関連かもしれませんが、環境省発表の以下のデータを参照すると、意外なことが分かります。オフィスビルが含まれる「業務その他部門(以下、「業務部門」)」のカテゴリーのCO2排出量(17.4%)は、運輸部門(17.7%)と同水準なのです。

政府目標では、業務部門について、「2030年度までに、エネルギー起源CO2排出量を2013年度比で51%削減する」と掲げられています。
現在、都心に立地する大規模ビルや、不動産投資の対象となっている物件などを中心に、環境負荷軽減、省エネルギー性能を取り入れたオフィスビルが少しずつ増え始めています。
しかしながら、持続可能な社会の実現のためには、現在のように一部のディベロッパーや大手不動産会社が推進するだけではなく、借りる側から積極的に地球環境に優しいビルを選ぼうとする姿勢も大切です。環境省でも、テナント側の姿勢を啓蒙していくために「リーディングテナント行動方針(※1)」を打ち出しています。
オーナー、テナント、投資家などのオフィスビルの関係者それぞれが、共通の指標でビルの環境性能を知ることができる判断材料として考案されたのが「環境性能評価」。いくつかの評価基準に基づいて定性・定量化、またはランク付けするもので、米国発、日本発など様々な評価機関があります。
- ※1環境省が主導する、本行動方針に賛同する企業・自治体等を募集・公表することで、テナント企業等のニーズを建物オーナーに伝え、テナントビル等の脱炭素化を促進しようとする試み。
環境性能評価の意義

次に、環境性能評価のメリットを、オーナー側、テナント側それぞれについて整理していきましょう。
オーナー側にとって、オフィスビルが環境性能評価を取得することは、投資用オフィスビルや、上場不動産会社においてはESG投資(※2)を呼び込む好材料となります。そのため、現在、環境性能評価を取得しているオフィスビルは、投資用不動産に多い傾向です。もちろん、環境意識の高い企業に向けられたメッセージとしては、申し分ない効果が見込めそうです。
一方で、テナント側が環境意識の高い企業であることを広く訴求できると、以下のようなメリットが期待できます。
- CSR(企業の社会的責任)に力を入れている企業であると強く印象付けられる
- ESG投資を呼び込むことができる
- 従業員の帰属意識(エンゲージメント)の向上が見込める
- 採用力の向上が見込める
採用力の向上について、2021年には東京大学から興味深い調査結果が公表されています。
「将来勤める企業を選ぶうえで、その企業がSDGsを経営戦略などに組み込んでいることを一つの判断基準として考慮しますか?」という問いに対しては、68%の回答者が考慮する、あるいは、少し考慮する、を選びました。学生のSDGsへの関心の高さは、優秀な学生を採用したい企業にとってもSDGsに取り組むインセンティブになりそうです。
(「東大生のSDGs意識調査2020」2021年2月発行(TSCP学生委員会))
これらのことから、オーナー側がオフィスビルで環境性能評価を取得したり、テナント側が環境性能評価取得済みのオフィスビルを選ぶことは、企業成長にとってポジティブな効果が期待できそうだと考えられます。
- ※2環境・社会・企業統治に配慮した取り組みを評価し、投資対象を選別して行なう投資のこと
環境性能評価にはどのようなものがあるのか
さて、次に環境性能評価には、どのような評価基準があるのかをみていきたいと思います。メジャーな認証制度を4つご紹介します。
CASBEE(Comprehensive Assessment System for Building Environmental Efficiency)
(一社)日本サステナブル建築協会・(一財)建築環境・省エネルギー機構

省エネルギーや環境負荷の少ない資機材の使用といった環境配慮はもとより、室内の快適性や景観への配慮なども含めた建物の品質を総合的に評価するシステム。認証のほか、SDGsに対応したチェックリストや感染対策チェックリストを発表しています。
建築、街区、不動産、などいくつかの分野に分けられていますが、そのなかでも「CASBEE―不動産」では、不動産の評価につながりやすい項目に絞った評価基準が策定されています。
DBJ Green Building
日本政策投資銀行(DBJ)

環境・社会への配慮がなされた不動産(「Green Building」)を支援するために、2011年4月に日本政策投資銀行(DBJ)が創設した認証制度です。対象物件の環境性能だけでなく、テナント利用者の快適性、防災・防犯等のリスクマネジメント、周辺環境・コミュニティへの配慮、ステークホルダーとの協業等を含めた総合的な評価に基づく認証。
不動産事業者だけでなく、投資家も含めた多様なステークホルダー間での実務的なコミュニケーションに利用できるツールであることを大きな特徴としています。
WELL(WELL Building Standard)
運営:IWBI(International WELL Building Institute)・認証:GBCI(Green Business Certification Inc.)

利用者の健康や快適性に焦点を当てた米国発の建築物の評価システム。ウェルビーイングに影響を与える機能について、最新版では10のコンセプト(空気、水、食物、光、運動、温熱快適性、音、材料、こころ、コミュニティ)をベースに合計117の必須・加点項目が設置されています。
書類審査と現地審査を行なった結果を、多様性と包摂、アクセシビリティとユニバーサルデザイン、ストレス管理などの観点から、4段階で認証されます。
LEED(Leadership Energy & Environmental Design)
開発・管理:USGBC(U.S.Green Building Council)・認証:GBCI(Green Business Certification Inc.)

米国発の建築や都市の環境性能評価システムで、「省エネルギ―や水などの省資源を含めた総合的な環境性能」を評価する手法。コストや資源の削減を進めながら、人々の健康に良い影響を与え、再生可能なクリーンエネルギーを促進する建築物を認証するシステムです。
対象別に5つの認証システムが整備されており、得点に応じて標準認証(Certified)・シルバー・ゴールド・プラチナの認証レベルが付与されます。
認証機関が同一の「WELL」と「LEED」。どちらも「ビルト・エンバイロメント」(建築、都市空間)を評価・認証するシステムですが、「LEED」が省エネルギ―や水などの省資源を含めた総合的な環境性能により評価するのに対し、 「WELL」は、それらを人の健康・ウェルネスとの関係で評価します。
環境性能評価を取得しているビル群
ここでは、認証を取得しているオフィスビルを2棟、評価のポイントとともにご紹介していきます
DBJ Green Building認証取得 京橋エドグラン

<主要な評価ポイント>
- ・共用部および専有部の全てをLED化していることに加え、BEMSの導入により建物全体の省エネ運用を実施するなど、省エネルギーに関し、優れた取り組みを実施している点
- ・共用部および専有部を対象に72時間運転可能な非常用発電機を設置していることに加え、中間層免震構造を導入するなど、防災に関し、優れた取り組みを実施している点
- ・タウンマネジメント活動の推進に加え、歴史的建築物である明治屋京橋ビルの保存再生を行うなど、周辺環境とコミュニティに配慮した開発を実施している点
DBJ Green Building認証取得 SーGATE日本橋本町

<主要な評価ポイント>
- ・Low-e複層ガラスの導入による日射熱負荷の軽減、サッシュ下部の自然換気口および全熱交換器による外気導入等、建物における空調エネルギーの削減に配慮している点
- ・自動水栓、節水型トイレの設置、全館LED照明の採用、電気自動車充電設備の設置等、省エネ・省資源に配慮している点
そのほか、比較的小規模なビルでも環境性能評価を取得している例も。
茅場町のオフィスビル「KITOKI」は基準階面積24坪と小規模ですが、「非常に優れた環境・社会への配慮がなされた建物」として DBJ Green Building 認証(プラン認証)を受けています。

また、2018年竣工の田町のオフィスビル「G-BASE田町」では、メンタル、フィジカルの両面に寄与する「Wellness Office」を掲げ、省エネや環境配慮だけでなく、多様なワークスタイル、ライフスタイルに適応するための仕掛けを配しており、CASBEE-不動産(2021年SDGs対応版)を取得しています。

G-BASE田町 清水建設サイトより
まとめ

今回は、環境性能評価を取り上げてきました。
大規模新築ビルで注目されがちな環境性能評価ですが、環境問題への意識が高まり続けるなか、中小規模のオフィスビルや、新築ビル以外でも環境性能評価を取得する機運が高まってきています。
オフィス選びにおいて環境性能評価を判断基準に加える企業はまだ多くはありませんが、SDGsに取組んでいる企業や、CSRとしての効果を期待したい企業は、環境配慮型のオフィスビルをご検討されてみてはいかがでしょうか。
FRSでは、環境性能に秀でたオフィスビルの情報も網羅しています。情報収集段階であっても、お気軽に当社までお問い合わせください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
(著:FRS広報チーム)
参考資料
・2020年温室効果ガス排出量(確報値)概要(環境省/国立環境研究所)
・第2回不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会資料(国土交通省)
・「京橋エドクラン」「DBJ Green Building 認証」取得(中央日本土地建物グループ)