
SDGs、ウェルビーイング、カーボンニュートラル、等々。
従来の消費の在り方や、働き方に対して警鐘を鳴らすワードには事欠かない昨今。英国・グラスゴーで開催されたCOP26では、各国首脳・識者から、地球温暖化対策に可及的速やかに着手するべきことが声高に訴えられていました。
未曾有の大災害であるコロナ禍は、「本当に大切なものとは、いったい何なのか」について世界中の人々が考えるきっかけと、向き合うための充分な時間を提供しました。さて、そのような環境の変化も手伝って、こんな表現が登場しました。
衣・食・住・働・遊の持続可能性
「衣・食・住・働・遊」は、古くから使われてきた「衣・食・住」に、「働く」「遊ぶ」の2つの概念が加わった、昔からあったような、新しい表現。「ワーク・ライフバランス」という言葉も既に市民権を得て久しいですが、そこに「遊」の概念も含めて、持続可能な社会、豊かな人生について議論されているそう。
今回のコラムでは、その「衣・食・住・働・遊」から、持続可能な「食」に焦点を当ててお送りします。オフィス空間で課題解決するFRSとしては非常に珍しいテーマ設定です。ぜひお楽しみください。
持続可能な「食」、サステナブル・フード

まずは、用語の定義から整理していきましょう。
サステナブル・フードは、以下のように定義することができます。
- 環境負荷を抑えることを前提に生産された食材、またはそういった食材を使った食品や料理
- 一次産業従事者の生活を考慮して生産・取引される食材
環境負荷には多くの要素が含まれますが、その代表的なものは、サステナブル・ファッションと同様、加工など製造工程で発生する温室効果ガスや天然資源の問題。そして、「食品ロス」の削減も重要な論点です。
日本の抱える食品ロス問題
(消費者庁Webサイトより)
日本では、年間2,531万トン(※)の食品廃棄物等が出されています。このうち、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は600万トン(※)。これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料援助量(2019年で年間約420万トン)の1.4倍に相当します。
私たち日本人は、ものを大事にする、食べ物を粗末にしない、そういったイメージがありましたが、残念ながら、データはそれが大きな間違いであることを物語っています。
ここでは、サステナブル・フードとして、大きな期待を集める2つの事業をご紹介します。最初に「持続可能な農業の形」を体現した事業について。
持続可能な農業の姿「自然栽培」

市場に流通する「安全な~」や「こだわりの~」などの修飾語が付いた野菜は、「有機栽培」がほとんど。今回ご紹介する「自然栽培」は、それらとは一線を画す栽培方法。
肥料・農薬には一切頼らず、植物・土の本来持っている「自然界が本来備えている力」を引き出す農法で、自然に負荷をかけることない永続的な農業方式
なのです。事業の柱として、その革命的な栽培方法を広めるべく啓蒙し続けているのが、1985年創業のナチュラル・ハーモニー社。
農薬や肥料を使用しない自然栽培の作物は、自然界の法則を、命が育まれていくルールを、自らの姿をもって教えてくれます。だから、私たちは自然栽培を伝え広めたいと思っています。自然の姿・仕組みから学び、起こった事象に身をゆだね、生かされていることに感謝する。そんな価値観を軸に、地球上の生きものすべてが本来の豊かさに満ちた、永続可能な社会に進んでゆけたらと思っています。
(ナチュラル・ハーモニー社 公式Webサイトより抜粋)
一般的な農法は、一定水準の品質を保ち、一定量以上の収穫を実現させるべく徹底的に合理化されたもの。78.5 億人の 世界人口に対して食料を安定供給していくためには、致し方ないのかもしれません。そのことと表裏一体なのが、土壌汚染・生態系の破壊などの環境負荷。人間の事情によってのみ植物を生育することが、本来の地球環境にとってポジティ ブに作用するはずはありません。
ナチュラル・ハーモニー社の提唱する栽培方法は、そんな合理性とは対極にあると言っても過言ではありません。

自然栽培は、「土をつくる」ことからスタートします。蓄積された土壌の汚れを清算し、その土地柄や作物に合った土に進化させます。実は肥料や農薬で汚染された土壌が本来の力を取り戻すには、場所によっては十年かかると言われています。そのためには、足し算の農業から引き算の農業に変える必要があります。
生産効率からは縁遠いようですが、結果的に農薬散布の必要はなくなり、そして同時に健全な農産物を生み出し、何より地球環境を本来の姿に戻していく活動として大きな意義を持っています。
この圧倒的なサステナブル・フードには、同社の神奈川県横浜市の実店舗や、EC で触れることができます。同社の理念や製品についてなど、興味のあるかたは以下の Web サイトをご参照ください。
持続可能なタンパク源「プラントベースミート」

続いてご紹介するのは「プラントベースミート」。フェイクミート、代替肉とも呼ばれます。
日本ではまだ市民権を得るには至ってませんが、欧米では既に広く知られた存在。「食の多様性」に応える食材として、近年急速に市場が急拡大しています。特に米国では、環境意識の高まりや食料問題への懸念から、ベジタリアン(※1)が全人口の10%近くまで増加しているそう。米国の人口が約3.3億人(2020年時点世界銀行発表データ)ですから、3,300万人の市場ということになります。そのうち、30%~50%程度をビーガン(※2)が占めていると言います。
- ※1ベジタリアンとは、肉や魚などの動物性食品を摂らず、穀物や豆類、野菜などの植物性食品を摂る人のこと
- ※2ビーガンとは、卵や乳製品も摂らないピュアなベジタリアンのこと
この市場における米国のトップランナーは、ビヨンドミート社。米国カリフォルニア州で2009年創業のスタートアップ企業で、エンドウ豆などを主原料に、ハンバーガー向けのビーフパティや、ソーセージなどのプラントベースミートをスーパーなどの小売店や、飲食店向けに販売する企業です。マイクロソフト創業者ビル・ゲイツや、俳優のレオナルド・ディカプリオなども投資していることからも、近年大きな注目を集めています。

プラントベースミートは、読んで字のごとく植物由来原料。人間にとって重要なタンパク質を動物性以外で摂ることは、環境負荷軽減に大きく貢献すると期待されています。乳牛や畜産などで、動物を飼育、食品として加工して市場に投入されるまでには、膨大な水資源と電力エネルギーが必要であることは、想像に難くありませんね。
さらに、軽視できないのは、「げっぷ・おならによる温暖化問題」。牛やヒツジ、ヤギなど(はんすう動物と呼ばれる種類)は、体内に4つの胃を持ちます。食べた植物を、長い時間をかけて消化するわけですが、その際、大量のメタンガスを放出します。その量は、160~320リットル/日とも!世界で飼育されている牛だけをみても、15億頭以上(2019年データ)。1頭当たりの量の平均値で乗じると、3.6億トン/日のメタンガスが放出され続けている計算です。
メタンガスの温室効果は、二酸化炭素の50倍以上とも言われ、大気中に含まれるメタンガスの約30%が、はんすう動物のげっぷ・おなら由来だという研究結果も…。この事実だけをとってみても、ベジタリアンが増えるのにも頷けますね。
なお、プラントベースミートは、製造コストも圧倒的に安いというのも、大きな魅力のひとつです。
まとめ

今回は、持続可能な「食」についてご紹介してきました。
私たちも、地球に住んでいる生き物の一員として、まずは現実を直視して把握し、自分自身で出来る第一歩を踏み出す。そんな意識や行動が連鎖し、大きな輪になったときに、地球環境が回復に向かっていくのではないでしょうか。
また別の機会に、「衣・食・住・働・遊」の他のテーマについてもご紹介していく予定ですのでご期待ください。今回のコラムが、皆様にほんの少しでも気付きを得ていただくきっかけになったら嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
(著:FRS広報チーム)