
「ESG経営」。
かつては大企業が一部の投資家に訴求するために取り組まれており、中小企業とはまるで別の世界線で行なわれている印象がありました。
それが昨今、そういう状況ではなくなってきています。
例えば、某大手転職支援サイトの求人検索キーワードに「ESG」を含めて検索してみると、その数じつに1,000件超。また、外資系を中心とした大手企業には、新規取引を始めるにあたって、ESG経営の取組みについて問う例も少なくないと聞きます。
ESG経営は大手企業のみならず、全ての企業が取り組むべきテーマであり、第一歩を踏み出すのに早すぎるということはありません。特に、採用力を上げたい企業や、大手企業と取引したい企業にとっては尚更。
フォーバルGDXリサーチ研究所の調査では、
・ESGを知っているし、他者に説明できる … 5%
・ESGを知っているが、説明できるほどではない … 34.2%
と低水準。現時点ならまだ他社に先んじて学ぶことができます。
今回は、いまさら聞けないESGについて整理していきます。
「ESG経営」とはいったい何なのか
ESG経営とは、企業が環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を考慮しながら持続可能な成長をめざす経営手法です。
近年、気候変動問題や社会的不平等といったグローバルな課題が深刻化する中、企業は単なる利益追求だけでなく、社会全体の持続可能性に貢献することが求められるようになってきたことから、時代の要請に応えるための新しい経営理念として注目されています。

「ESG」という用語は、2004年に国連グローバル・コンパクト(※1)により提唱されました。歴史を紐解くと、社会的責任投資の重要性は17世紀にクェーカー教の創始者、ジョージ・フォックスによる平和主義に基づいた投資の原則の提唱にその原型をみることができます。
※1 国連グローバル・コンパクトとは
国連グローバル・コンパクト(UN Global Compact)は、1999年に当時の国連事務総長コフィー・アナン氏が提唱した、企業が社会の一員として責任を果たし、持続可能な社会の実現に貢献するための重要な枠組み。地球規模で深刻化する気候変動、社会的不平等、貧困など、現代社会が抱える様々な問題に対して、企業は単なる利益追求だけでなく、社会の一員としての責任を果たすことが求められ、人権、労働、環境、腐敗防止の4つの分野における10の原則を支持し、実践することを呼びかけています。世界中の多くの企業が、国連グローバル・コンパクトに署名し、サステナビリティ経営に取り組んでいます。
ESG経営の3つの要素
ESG経営を構成する環境、社会、ガバナンスの各要素。教科書的な説明は以下のとおり。
環境(Environment)
・企業活動が地球環境に与える影響について広範囲かつ長期的な視点での取り組み
・温室効果ガスの排出削減、資源の有効活用、生物多様性の保全など、環境負荷を低減するための取り組み
社会(Social)
・従業員の多様性と包摂性、人権の尊重、地域社会への貢献
・サプライチェーンにおける倫理的な行動など、社会との共存をめざした取り組み。
ガバナンス(Governance)
・経営の透明性、倫理的な意思決定プロセス
・リスク管理
・株主との対話など、企業の健全な運営を確保するための取り組み。
このように、ESGの要素を眺めてみると、大企業の製造業に課せられたものに感じられ、中小企業にとって非常に遠い世界のものに思えてきますが、実際には決してそうではありません。
はじめにESG経営のもたらすメリットを提示していきます。
ESG経営は、企業に何をもたらすか

ESG経営に取り組む企業への投資(=ESG投資)は、日本だけでなく、世界で年々増大し続けています。ESG経営に取り組むことは、持続可能な社会に貢献するだけでなく、近年では経営の持続可能性にとって大きく貢献すると考えられ、投資家から高い評価を受け、企業価値の向上につながります。
ESG経営に取り組むことで、投資を呼び込む以外にも以下の3つのメリットを得ることができます。
リスク管理の強化
環境問題や社会問題に関するリスクを考慮した経営によって、企業の安定的な成長を促します
ブランドイメージの向上
ESG経営に取り組むことは、株主、従業員、ユーザーなどあらゆるステークホルダーからの信頼につながるため、ブランドイメージの向上が期待できます。このことは、採用力の向上や新規取引先の開拓のために力を発揮してくれます。
イノベーションの促進
環境問題の解決や社会課題の解決に向けて、新しい技術やビジネスモデルを開発することは、企業の競争力強化に繋がります。
ESGのメリットとして、企業価値・ブランドイメージの向上やリスク管理の強化は想像に難くはありませんが、イノベーションの向上については、その理由を解説する必要がありそうです。
ESG経営は、なぜイノベーションを促進するのか

ESG経営がイノベーションを促進させるのは、いったいどうしてなのでしょうか。そのポイントとなるのが「ESG的な視点」。
すべてのイノベーションのきっかけは、物事を別の視点から捉え直すことで生じることが少なくありません。ESG経営の初手は、まさに従来の視点でみていた景色を「ESG的な視点」から捉え直すこと。自社の事業・サービスを地球環境や社会といったスケールで定義し直すことからスタートします。
ー 自社の経営資源によって環境問題に貢献することはできないか
ー 地球温暖化対策に、自社で貢献できることは何なのか
ー 廃棄物を半分にするには
ー 再生可能エネルギーを活用できる領域は
ー 自社において、多様性をもった働き方はどう実現できそうか、など
これらについて改めて考え、実現可能性のあることを愚直に取り入れていくことがESG経営であり、イノベーションを促進させるというワケです。会社一丸となって取り組むことで、従業員は社会に貢献できている実感を得られ、エンゲージメント・パフォーマンスの向上も期待できます。また、その姿をみているユーザー・投資家からの支持が得られ、ファンを獲得、投資が集まる可能性も。さらには、各ステークホルダーからのアイデアや意見が集まり易くなり、さらにイノベーションが起こり易くなるという好循環が生まれます。

ESGのサイクルが回り始めれば、ESG経営は事業にとって素晴らしい起爆剤となって数字に表れてくるに違いありません。
しかし、その道のりは一朝一夕には成りません。長期的な視点で経営資源を分配し、本業の利益を確保しながらシフトチェンジしていく必要もあります。
また、ESG経営の浸透のためには、従業員に対して教育・研修の場を設けたり、具体的な数値目標の設定、ESGに対する取組みを評価するインセンティブ制度の用意など、仕掛けを講じることも大切です。
中小企業が始めるESG経営
温室効果ガスの排出制限に、ガバナンス。中小企業にとって身近な話には聞こえませんが、ESG経営の裾野はとても広く、むしろ中小企業のほうがESG経営を始めやすいといえます。中小企業には、地域社会に根差した、つながりの深い企業が多いことや、コンパクトなサイズを活かした柔軟でユニークな取組みを機動的に行なうことができるためです。
また、現在、上場企業に提出が義務付けられている有価証券報告書には、サステナビリティ情報の開示を企業に求める制度づくりが進んでいます。その中には、サプライチェーン全体での排出量(「スコープ3」と呼ばれる指標)の開示も必要になるといいます。その場合、サプライチェーン全体の排出削減目標を達成するために、対応できない中小企業は外されてしまう可能性も。まさにドレスコードとなり得るというワケです。
以下の表に、中小企業が着手し易いESG経営の初手と、従業員にできるESG経営への貢献についてまとめました。

とはいえ、ESG経営の実現には、日頃の経営の延長では経営課題が浮き彫りになりにくいものも多く、迷走してしまうケースも。そのような場合には、ESGアドバイザーの存在が大きな力になり得ます。

ESGアドバイザーは、ESG経営の実現に向けてE、S、Gそれぞれのカテゴリーについて整理して課題を見える化、実現に向けた処方箋となるロードマップを策定し、伴走しながら支援してくれる心強い存在です。
なお、ESG経営に取り組む中小企業には、地方銀行など金融機関から特別な融資制度が設定されている場合や、自治体ごとに補助金・助成金を設けている場合がありますので、活用してみましょう。
まとめ

ESG経営は、限られた企業の選択的な取組みではなく、すべての企業が生き残るための必須条件へと変化しつつあります。経営者だけでなく、すべての従業員が主体的に取り組むことで、より大きな成果につながります。
従業員一人ひとりができることから始め、企業全体で、できることからコツコツと継続して取り組んでいくことが大切です。ESG経営をめざすことで、自社の強みや事業の特性が改めて分かるという副産物も期待できますので、楽しみながら推進しましょう。
また、ESG経営にとってオフィス環境の整備は大切な要素。従業員が自分らしく、能力を発揮できるESG的な働く場創りは、生産性向上の観点からも、イノベーション創出のためにも効果的です。
ESG経営についてお困りの際は、ESGアドバイザー資格保有者を多数抱える当社まで、お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
(著:FRS広報チーム)