人と地球の健康のために。蛍光灯の2027年問題とは

昨秋からオフィス界隈でにわかに話題となっている「蛍光灯の2027年問題」。

「2023年11月、『水銀に関する水俣条約』の第5回締約国会議にて、2027年末までに一般照明用の蛍光灯の製造・輸出入が禁止される」ことが国際的に合意されました。このことによって、2026年末での製造・輸出⼊禁⽌が既に決まっている電球形&コンパクト形蛍光灯のほか、全ての⼀般照明⽤蛍光灯の製造終了が⾒込まれています(※1)。

※1 既に使用している製品の継続使用、廃止日までに製造された製品(在庫)の売り買い及びその使用が禁止されるものではありません

「水俣病」という歴史にその名を刻まれた公害問題。そして、その原因が水銀にあることは公知の事実ですが、蛍光灯を禁止することが、なぜその問題を解決する手段として有効なのでしょうか。

知っているようで知らない「水銀」のこと

「水銀に関する水俣条約」において、なぜ蛍光灯の製造・輸入が禁止されることになったのでしょうか。

その理由は、蛍光灯に使用されている「水銀」が、工業用途として優れた特性を発揮する一方で、生態系環境汚染や人体に深刻な悪影響を及ぼすためです。

水銀の歴史と錬金術士たち

水銀が発見された時期は、正確には分かりません。しかし、紀元前数千年前頃には、人類が水銀を使用していた形跡が見られます。

古代より水銀は、鏡の反射面をつくるために使用されたほか、水銀の硫化物である「辰砂(しんしゃ)」はその鮮やかな赤色から古代エジプトの壁画や中国の陶器などに顔料として使用されています。また、水銀は瀉下剤(便秘薬、下剤)や殺菌剤として、様々な病気に処方されていた歴史があります。

また、水銀は、卑金属から金を創ることや、不老不死の実現を夢見る錬金術師たちによって、熱心な研究対象となっていました。というのも、宇宙の万物は水、火、土、空気の四元素から成り立っていると信じていた古代の人々は、水銀はこの四元素の性質を全て含んでいると考え、宇宙の神秘を解き明かす鍵を握る物質として崇めました。

辰砂(しんしゃ)引用元:JJ Harrison, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

地中から発掘された赤色の「辰砂」を空気中で400-600度に加熱すると、水銀蒸気と亜硫酸ガス(二酸化硫黄)が生じます。この水銀蒸気を冷却凝縮させることで、水銀を精製されます。辰砂は、錬金術において特別な意味を持つ物質とされ、その別名は「賢者の石」とも呼ばれました。

水銀は、常温で液体である唯一の金属であり、高温で加熱すると蒸発します。また、他の物質と容易に合金を形成することなどから、錬金術師たちは、水銀がすべての金属の母体であると考えてました。

錬金術師たちは、水銀に様々な物質を混ぜ合わせたり、加熱・冷却して分離させたり結合させたりすることで、金や別の金属に変換または新たな金属を生み出せるのではないかと考え、ありとあらゆる実験を行ないました。残念ながら、錬金術士たちによって金や不老不死の妙薬は生み出されませんでしたが、その数々の実験は化学の発展に大いに貢献しました。

水銀の活用

水銀は、一定の熱膨張率、高密度(水の13.6倍)、表面張力の大きさ、電気伝導性などの特徴から、古代から現代に至るまで、あらゆる領域で活用されてきました。

気圧計、温度計、血圧計

水銀体温計(東大阪市Webサイトより)

温度変化により体積が一定に変化する性質や、融点が低く沸点が高いために広い温度範囲で液状を保つ性質は、温度計に適していました。、また、高密度であるため少量で計測器内に液柱を形成でき、表面張力によって液面の読み取りが容易でした。水銀の使用が制限されている現在では、デジタル式やアルコール式などが主流です。

水銀電池

東芝水銀電池(MUUSEO MERCURY BATTERY H-3P)

小型で高い電圧を出力できる水銀は、時計やカメラなどの小型電子機器に広く使用されていました。現在では、アルカリ電池やリチウム電池などが主流です。

蛍光灯

蛍光灯は、水銀原子に電子を衝突させることによって紫外線を発生させ、管の内側にコーティングされた蛍光物質が紫外線を吸収、可視光線に変換される一連の性質が利用されています。現在では、LED照明など省エネルギーで環境負荷の低い照明が普及しています。

その他にも、電気を通しやすい性質を利用しスイッチなどの電気部品に用いられたり、銀と水銀の合金により歯の詰め物として活用されたりしました。

高度経済成長の陰「水俣病」

水銀は、神経系に強い毒性を持ち、水俣病などの公害を引き起こすことが明らかになっています。以下の図のように、自然界に排出された水銀は、長期間残留し、食物連鎖を通じて生物濃縮されます。

水俣病情報センター(環境省)

水俣病の患者数は、認定基準が過去何度か見直されていることや、既に亡くなれているかたも大勢おられるため、正確な人数が把握できていません。参考まで、公害健康被害補償法に基づき認定された患者数は、2022年11月末時点で約3,000人、水俣病被害者救済特措法に基づく救済措置を受けた方は64,836人おられます。

水俣病
日本・熊本県水俣市で発生した、有機水銀による大規模な公害病です。チッソ株式会社水俣工場から排出されたメチル水銀を含む廃水が海に流れ込み、魚介類を介して人々に蓄積され、神経系に障害を引き起こしました。手足のしびれ、視野狭窄、運動失調などの症状が現れ、多くの死者が出ました。
水俣病の原因企業は(中略)第2次世界大戦後の復興に続いて高度経済成長のさなかにあった日本を支え、発展させる原動力の役目を担っていた化学工業分野の企業です。(中略)廃棄物や廃水の処理についても規制が整備されておらず、(中略)労働環境や自然環境への配慮は後回しにされていました。
(引用:水俣病情報センター(環境省))

世界では、水銀による大きな公害事例が二例報告されています。

ミニマタ病
カナダ・オンタリオ州のミニマタ湖周辺で発生した、水俣病と同様の症状を引き起こす公害病。製紙工場から排出されたメチル水銀が湖に流れ込み、魚介類を介して人々に蓄積、神経系に障害を引き起こした

イラクの種麦中毒事件
1971年、イラク政府が農作物の増産を目的に水銀を含む有機水銀化合物を種子にコーティング、農民に配布。この種子で栽培された穀物を摂取した人々を中心に、数千人もの死者が出た

蛍光灯2027年問題への対応

繰り返しになりますが、一般照明用の蛍光灯の製造・輸出入は2027年末までに廃止されます。蛍光灯など水銀を使用したプロダクトが残っている場合、必要な明るさを保つためには何らかの対応が必要になります。

私たちは、蛍光灯をLED照明へと更新することがもっとも合理的な手段ではないかと考えています。その理由は、電気代と蛍光灯価格の高騰。

現在、電気代は過去最高水準が続いており、一向に下降する気配がありません。その点で、LED照明の電気代は蛍光灯と比較して70%削減できる場合もあります。

また、蛍光灯の大手メーカーでは、健康被害抑止と地球温暖化対策への貢献のため、2027年を待たずに製造終了に踏み切っています。多くの製品が、在庫限りにて販売終了となるようです。

・ホタルクス社:2024年3月生産終了
・東芝ライテック社:2016年3月末生産終了
・パナソニック社:2025年6月生産終了予定

現在も蛍光灯は流通しているものの、原材料費の高騰によって価格は80%~90%上昇しているケースもあります。

想像に難くないLED特需の到来

蛍光灯は、オフィス内で8時間/日、点灯する場合、その寿命は2年~4年といわれます。2027年末は、本稿のリリース時点から残り3年と少し。ストック状況にもよりますが、2027年末時点で既存の蛍光灯をそのまま交換できる可能性は高くないかもしれません。

また、今回の国際会議での合意をきっかけに、各所でLED照明への切替えが一気に加速することが予想されます。日本照明工業会の調査では、2024年4月時点の日本国内のLED照明普及率は約60%。残りの40%がLED化を検討する潜在層ということになります。

これらのことから、LED照明への計画的な更新について、具体的に検討するのが吉です。タイムリミットである2027年末が迫ってくるほど、需要がひっ迫するのは明らかです。そして、あらゆるプロダクトの原材料費は上昇を続けています。時間の経過とともに、

・LED照明本体価格の上昇
・LED照明への更新にかかる工賃の上昇

大きな出費をともなうことになりかねません。

LED照明に更新する豊富なメリットについては、以下の表に整理しましたのでご参照ください。

環境への
貢献
省エネルギー化電気消費量の削減はCO2排出量削減に貢献
リサイクル性リサイクルしやすいため廃棄物量を低減
経営への
貢献
電気代削減蛍光灯より低消費電力、大幅に電気料金を削減(約70%とも)
交換頻度減長寿命なため交換頻度が減少。交換費用・手間の削減に
器具劣化減発熱量が少ないため熱による器具の劣化が低減
空調費削減発熱量が少ないため空調負荷を軽減
デザイン性向上形状や光の色温度などが豊富なため空間を自在に演出可能
調光機能調光機能付きなら快適な空間をシーンに合わせて調整可能
従業員への
貢献
集中力の向上適切な明るさと色温度が従業員の集中力を高め、生産性を向上
健康への配慮目に優しく、ブルーライト抑制機能付きならさらに健康にも配慮

まとめ

蛍光灯の2027年問題は、経営にとっては頭の痛い問題のひとつかもしれません。

しかし、身近に始められるLED照明への更新によって、地球環境負荷軽減に貢献でき(=ESG経営の第一歩)、さらにはランニングコストの低減が実現できると考えれば、ポジティブに捉えることもできそうです。

LED照明は、すべてを一度に交換する必要はありません。会計年度ごとに段階的に更新する計画を立てるのも非常に有効な手段です。また、効果を最大化しやすい環境・製品があります。LED照明特需がピークを迎える前に、まずは私たちのようなオフィス環境の専門家にお気軽にご相談ください。

最後までお読みいただきありがとうございました!

(著:FRS広報チーム)

■より環境に優しいLED照明「Re:Shine(リシャイン)」
約84%が再利用可能で製造時のCO2排出量も削減

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参考資料

・水俣病情報センター(環境省)

・メチル水銀中毒患者を診察して(農村医学 若月俊一著)

・一般照明用の蛍光ランプの製造・輸出入は2027年までに廃止されます(環境省)

・蛍光灯の2027年問題って? 製造中止や生産終了の状況について(Panasonic)

・「水銀体温計・水温血圧計」の出し方(東大阪市公式)