
少しずつ日本国内にも浸透してきたワード「ウェルビーイング(Well-being)」。大手広告代理店の調査によると、「ウェルビーイング」の言葉の認知は、昨年の20.8%から25.4%に増加したそう(「電通、第17回『ウェルネス1万人調査』を実施」より)。
言葉の認知とともに、ウェルビーイングをオフィスに取り入れている企業も増えています。そんな企業が行なうウェルビーイングな環境構築の取組みを「ウェルビーイング経営」といいます。
しかし、未着手の企業にとっては、そもそもウェルビーイングとはどのような状態なのか、もやもやしているかたも実際多いのでは。今回は、そんな皆さまのために、ウェルビーイング経営について、一緒に整理していきましょう。
ウェルビーイングとは

ウェルビーイング(Well-being)とは、ウェル(Well=よい)とビーイング(Being=状態)からなる造語で、「身体的・精神的・社会的に満たされた、幸福な状態が持続できること」を表す幅広い概念。「一時的に良好かどうかではなく、持続的に良好かどうか」が重要です。「ing」が付いているのはそういうことなのですね。
ウェルビーイングという表現の歴史は古く、1946年のWHO(世界保健機関)設立に際して、設立者の1人であるスーミン・スー博士が定義づけした「健康」に登場しています。なんと、約80年も前に提唱された概念なのです。
「持続的な幸福」については、ポジティブ心理学の父と称されるマーティン・セリグマン博士が2011年に発表した「PERMAモデル」が参考になります。PERMAモデルでは、人々が持続的な幸福を感じるために必要な要素として、以下の5つを挙げています。
■持続的幸福を感じるために必要な5つの要素
・Positive emotion:ポジティブな感情を持っていること
・Engagement:何事に対しても積極的に関わっていること
・Relationship:他者と肯定的で良質な関係性を築いていること
・Meaning:人生に意味・意義を見い出し、自覚していること
・Accomplishment:達成感を感じていること
ウェルビーイング経営が推進される背景
ウェルビーイング経営は直接事業とは関係が薄く、むしろ出費をともなうために、大企業向けのものであるように感じているかたは、多いのではないでしょうか。にもかかわらず、ウェルビーイング経営が特に注目されているのは一体なぜでしょうか。その主な理由には、次の3つがありそうです。
① 労働人口の減少
日本は、少子高齢化が進み、労働人口が減少の一途をたどっています。さらに、テクノロジーの進化や終身雇用の崩壊も相まって、人材不足・採用競争激化が進むばかり…。このような背景から、各企業では、魅力的な職場環境の構築によって、従業員エンゲージメントを高めて離職率を低下させ、且つ採用市場で優位に立つために企業ブランディングが必要になった、というワケです。
そのために必要な要素を備えているのが、ウェルビーイング経営なのです。
② 働き方改革の潮流
長時間労働、通勤時間の非効率性の是正などを背景に、テレワーク・フレックスタイム制の導入など、オフィスワークの在り方が大きく変容してきています。また、多くのオフィスワーカーが、時間や場所にとらわれない働き方を求め、ライフワークバランス(※1)を重視する傾向に。
従業員の持続的な幸福を追求するウェルビーイング経営は、そのような時代のニーズに応えることになります。
※1 仕事と生活の調和について、一般的には、「ワーク・ライフ・バランス」と呼ばれています。しかし、東京都では、「まずは人生、生活を大切にすべきである」とする考え方に基づき、「ライフ・ワーク・バランス」と呼んでいます。
(東京都公式Webサイトより)
③ SDGs(持続的な開発目標)

SDGsは、人類が、地球上で安心して生活していくために解決すべき環境問題や貧困問題などの課題を整理・解決方法を提示する2030年までに達成すべき具体的な目標。具体的な17のゴール(169のターゲット)には、以下の2つの課題が含まれています。
・ゴール3「すべての人に健康と福祉を」
健康と福祉を守るためには、安定した社会、すなわち持続可能で永続的な社会の実現が必要です(WWFジャパン公式 サイトより)。英語で書かれた原文には、「well-being」と明記されています。
・ゴール8「働きがいも経済成長も」
労働環境や経済成長は、持続可能性な社会の実現を左右する大きな要因です。これを支えられる社会的な仕組みや、協調の精神の欠如は、国際的なさまざまな問題の原因となります(WWFジャパン公式サイトより)。
ウェルビーイング経営のメリットとは
ウェルビーイング経営を真剣に取り組むと、どのようなメリットがあるのでしょうか。今回は4つのメリットについて整理していきます。
エンゲージメントの向上
あらゆる面で持続的に幸福である状態をめざすウェルビーイングの推進は、エンゲージメントの向上に貢献します。人間関係や労働環境が改善されていくことで、従業員の帰属意識が高まります。また、同時に離職率の低下も期待でき、人材流出リスクを軽減することができます。
採用力の向上
労働人口が減少の一途をたどる昨今において、採用市場における他社との差異化は多くの企業にとって重要な経営課題です。従業員の幸福を追求する企業の姿を社外に発信していくことで、自社のブランディングに大きく貢献し、転職市場で好意的にみられることができます。
生産性の向上
ウェルビーイング経営の推進によって人間関係や労働環境が改善されることで、従業員は余計なストレスから解放され、心身が健康になります。その結果、勤怠が改善され、仕事への集中力の高まりが期待でき、生産性の向上が見込まれます。
健康経営の推進
ウェルビーイング経営と比較されることも多い、健康経営。ウェルビーイング経営のベースは、従業員の心身の健康です。おのずと健康経営への取組みにつながります。なお、ウェルビーイング経営と健康経営では、視点が違います。前者は従業員の視点での施策検討(ボトムアップ)、後者は経営視点で施策を検討(トップダウン)します。
身近なことから始めるウェルビーイング経営
ウェルビーイング経営は、できることからすぐに始めて積み重ねていくのが大切。一朝一夕に実現できるものでは決してありません。プロセスは、現状把握→施策検討→実施→検証、とPDCAサイクルを回していきましょう。
現状把握
ウェルビーイング経営は、具体的に何をするべきかについて明確な定義はありません。心身の健康、幸福な状態については人による差異が大きいためです。そのため、自社の現状把握をすることが何より肝要です。社内アンケートやサーベイなどを実施して、従業員の声を集めていきましょう。このアクションだけでも、まずは会社がもっと良くなるのではないか、という期待を従業員に感じてもらうことができます。
施策を講じる
・ヘルスケア施策
従業員が健康であることは、何よりも大切。健康診断・予防接種、産業医との連携強化やストレスチェックの実施など、従業員の心身の健康状態を把握し、必要に応じて改善に向けたサポートも実施しましょう。また、健康のためには従業員本人の意識も重要。啓発する情報発信を定期的に行なっていきましょう。
・労働環境改善施策
サーベイなどの結果、長時間労働や休日出勤の常態化がみえる場合や、著しい業務負荷の偏りがある場合には、是正していく必要があります。人員増強による負荷分散だけでなく、在宅勤務・フレックスタイム制の導入など柔軟な働き方を取り入れ環境改善を推進しましょう。
・コミュニケーション活性化施策
社内の風通しが良く、人間関係が良好であることは、従業員の心身の健康に大きな影響を与えます。コミュニケーション活性化のためのオフィスのデザイン・設計、メンター制度・シスター制度の導入など、従業員の変化に気を配りながら施策を講じていきましょう。
・福利厚生制度の拡充施策
心身の健康を促進し、仕事の生産性を高めるためには、福利厚生を拡充するのも効果的です。食事補助・住宅手当などの経済的な支援策のほか、スポーツクラブ・ヨガ教室などの優待など、従業員に英気を養ってもらいましょう。
まとめ

今回は、ウェルビーイング経営について整理してきました。
ウェルビーイング経営は、出費をともなうものも多く、導入のハードルが高く感じたり、躊躇してしまう場面も。しかし、中長期的な視点でみると、「生産性の向上」や「採用力の向上」、何よりも従業員のエネルギッシュな状態は、かならず企業の成長ドライバーとなります。
そう考えると、中小企業にこそウェルビーイング経営が必要なのではないでしょうか。財務状況や自社の従業員の状況などに応じて、できることから着手してみることをおススメします。当社では、ウェルビーイング経営のための各種施策についてもコンサルティング実績がありますので、まずはお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
(著:FRS広報チーム)