
「空調とは、空気調節の略語である」じつは、これは間違い。
「空気調和」が正解です。調節ではなく「調和」。調節したり、換気したり、空気の流れを整えることによって、その空間内の空気を、調和させていくのが空調の本来の意味で、調節よりも上位概念なのです。
空調機器の連合軍の筆頭格は、やはりエアコン。現代のオフィス事情における必須アイテムと言って差し支えなさそうです。しかし、オフィス内の空気を調和させる作業は、まだまだエアコンだけに任せてはおくわけにはいきません。
空調管理は、昨今定着しつつある「ファシリティマネジメント」の入門編であり、しかも非常に重要なテーマです。空調により快適な環境をつくることによって、生産性、ひいては業績にも大きな影響を与えることが分かっています。そして、適切に使用することは地球環境にも大きく貢献します。
今回のコラムは、そんな大切な空調について掘り下げていきたいと思います。
室温28度は、間違い? 正解? 誤解?

国が定める夏の適正な室温の目安は28℃です。ここで注意すべきなのは、あくまで室温の上限の目安でありエアコンの設定温度ではないという点です。
「快適に過ごせる軽装」や「無理のない範囲で冷やし過ぎない室温管理を」という呼びかけと共に推奨されている室温28℃ですが、エアコンの設定温度の目安と誤解されることも多く、夏のオフィスでは室温を巡り議論が生じることも少なくありません。
そもそもこの「28度」という指標、いったい何の数値を表し、いつから言われ始めたのでしょうか。
「室温28℃」のルーツとは
「28℃」のルーツは、1966年3月に旧厚生省から報告された「ビルディングの環境衛生基準に関する研究報告書(厚生科学研究)」にありました。そこには、以下のように記載されています。
室温の許容限度範囲は、冬季で17~23度、夏季で21~28度
当時のオフィスには、熱を持ち易いパソコンなどのハードウェアはもちろんありません。また、1966年の日本の平均気温は、2020年以降と比較して約1.5度程度低い数値(以下の経年変化グラフ参照)でした。

この報告書をベースに制定されたのが、1970年の建築物衛生法。そこには「室温は17度~28度にするべき」という強めの表現で記載されています。そして、2005年に地球温暖化防止策の一環として始まったクールビズのキャンペーンにおいても、この建築物衛生法が基準とされました。
驚くべきことに、当時とはまるで事情の異なる現代社会においても、根拠となる数値がそのまま活用されているのです。しかも、当時の旧厚生省調査では、「許容最低限度の上限値」として28度という数値を用いています。言い換えれば、「人が我慢できる限界の温度は、28度です」と言っているのです。
ある調査によれば、夏季のオフィス内エアコンの設定温度を28度にしている企業は約2割に過ぎないとも。
空気調和を重視した環境づくり
室内の温度を議論するときに想起されることが多いのが、地球温暖化防止(≒電気代節約)と生産性(≒快適性)の問題。エアコンの設定温度を下げないことが、地球に貢献するという認識をもっている方も少なくありませんが、その認識のもと設定した室温が結果的に大きなデメリットも生じさせてしまう可能性もあります。
早稲田大学の田辺新一教授がコールセンターのオペレーター約100人を対象にした実験では、平均気温が25度から28度に上がれば対応件数が約6%減少したという。
日本建築学会の調査でも、冷房の設定温度を上げると消費電力を節約できるが、作業効率が下がるため、オフィス1平方メートルあたり約1万3千円の損失になるという。
クールビズ論争に一石「室温28度は暑い」政府会議で指摘(日本経済新聞(2017年5月))
この記事によれば、室温と生産性には相関関係があることが明らかです。また、この報告が空調メーカーや家電量販店からのものではなく、大学の研究室と、建築学会からのものであることも信憑性があり注目すべきポイントです。
また、オフィスでの熱中症も危惧される昨今、暑さを感じながらやみくもに設定温度を28℃にし続け我慢をすることは危険です。
過度に冷やすことなく快適なオフィス環境を実現させるには、まずは空気調和について正しく理解し、自社のオフィス環境に適した対応策を検討していくことが大切です。
オフィス空間の空気を調和させるには?

クールビズで求められている室温28度は、冷房の設定温度とイコールではありません。オフィス内の温度は、様々な要因によって大きく変わります。変動要素の多い空調は、全体最適をはかることは容易ではありませんが、「オフィス利用者が健康に、気持ちよく働けること」という普遍の目的を達するためには、空調の問題は避けては通れません。
また、温度や湿度の感じ方には、個人差が大きいことも注意しなければなりません。エアコンは、ひとりひとりが個人の体感で設定温度を操作してしまう点も大きな問題。オフィスの出入りの多い職種の人などは、真夏の炎天下とエアコンの効き過ぎた室内の出入りを頻繁に繰り返すことで、著しい寒暖差により自律神経のバランスが崩れ疲労が蓄積、さまざまな体調不良を引き起こすリスクが高まります。
人間は、体内で発生する熱を、外部環境と「熱交換」を行なうことで体温調整する生物。この熱交換に影響を与える要素は温熱環境要素と呼ばれ、以下の6つの要素が挙げられます。難解な概念や計算式は専門家に任せるとして、それぞれについて大まかにおさえておきましょう。
① 代謝量 … 人が活動するために必要なエネルギー量
② 着衣量 … 人が身に付けている着衣の断熱性・保温性
③ 気 温 … 空気の温度
④ 熱輻射 … 離れた物体の間で赤外線を介して伝わる熱。熱放射とも
⑤ 気 流 … 空気の流れ
⑥ 湿 度 … 空気が水蒸気を含む度合
6つの要素のうち、①、②については、個人によって差異があるため制御が困難。一方、③~⑥については制御可能な要素です。
周囲の温熱環境に対して人が感じる暑さや寒さといった感覚を「温冷感」といいます。同じ温度で、空気の流れがある場合、体感温度が下がります。人が動いていれば、また、進行方向とは反対に向かって相対気流が生じることでも体感温度は低下します。
また、湿度の温冷感に対する影響も大きく、同じ温度で、湿度が高い場合は不快に、湿度が低い場合には、快適に感じます。これらの効果を利用した空調管理の方法をご紹介しましょう。
温度計によるモニタリング

最初に行なうべきことは、現状把握です。オフィス内の複数個所に温度計を設置し、数値を計測してみてください。エアコンの設定温度を揃えておくと、より鮮明に違いが浮き彫りになって検証し易くなります。それを定点観測して、エアコンの設定温度と実際の温度に、どの程度の差異があるのかを測ってみましょう。
次に、そこから得られたデータをもとに仮説を立てていきます。エアコンの設定温度と実際の気温に差異がある(エアコンの効果が発揮されにくい)場合、理由が何なのか。可能性を洗い出していきます。例示すると、
・人が密集し易い
・パソコン機器や複合機からの排熱
・窓の遮熱不足
・エアコンの風が循環しない
・外気温の時間帯による温度差
ここがスタート地点です。これらについて解決策を検討していきます。例えば、
・人が密集し易い
⇒ 固定席により密になり易いレイアウトの場合、フリーアドレスを導入し密にならない座席運用を検討
・パソコン機器や複合機からの排
⇒ 複合機などの熱源との間に間仕切りを設置、排熱が滞留しないよう送風機を設置、パソコン本体の設置位置を変更、などいくつかの方法を検討
・窓の遮熱不足
⇒ レイアウトの工夫や、遮熱効果のあるシートやブラインドの導入を検討
・エアコンの風が循環しない
⇒ 直風による温冷感への影響を含め、温度ムラを解消するために気流の変更を検討
・外気温の時間帯による差異
⇒ 変動の傾向を把握し、設定温度の調節運用を検討(センサーで複数個所の温度が一目でわかる温度計の導入もおすすめ)
このように、解決策を提示し、それから工数・費用等の観点を踏まえて改善策を実行するという段取りが吉です。
サーキュレーターによる気流の調整

オフィス内の空気を循環させるための、もっともシンプルな方法が、換気です。閉め切ったままのオフィス内のよどんだ空気を外に逃がし、新鮮な空気と交換するのは有効な手段です。しかし、そもそも窓が開けられないなど、なんらかの理由で換気ができない場合も多々あります。
そんなときにオススメしたいのが、サーキュレーターの活用。扇風機が空気を冷やす役割であるのに対して、サーキュレーターは空気を循環させる装置です。
オフィス内の空気が循環し、気流が生まれることで温冷感に影響を与え、不快指数が低減されます。エアコンから排出される風の向き・風量や、障害物の有無に合わせて設置場所を検討しましょう。サーキュレーターを活用するうえで注意したいのが、
- 直接人肌に当てず、エアコンの風を循環させる
- 通行の妨げにならない設置場所を検討する
こちらの2つを特に意識して、活用してみてください。
遮熱フィルムによる熱輻射の低減

オフィスの窓際・外壁際などから3m~6m内側までは、日光・外気温による影響を受けやすいエリア(「ベリメーターゾーン」といいます)。そのような場所には、遮熱フィルムが活躍します。
遮熱フィルムを窓ガラスに貼ることで、日差しによる窓際温度の上昇や、冷房効率の低下の軽減をすることができ、窓際の快適性向上や省エネ効果が期待できます。遮熱フィルムは、遮熱効果と、フィルム明るさ(可視光線透過率)のバランスによって、適切なフィルムを選択します。
そんな便利な遮熱フィルムですが、ビル所有者側でNGが出る可能性もあるので注意が必要です。その理由は、「熱割れ」と呼ばれる現象。窓に使用されているガラスは、直射日光を受けることによって温度が上昇して膨張しますが、サッシに隠れた周辺部分は温度が上がりません。この温度差によって生じるのが熱割れです。遮熱フィルムを貼ったガラスに熱がこもりガラスの温度上昇が加速すると、日光のあたりにくい部分との温度差が大きくなり熱割れを起こしやすくします。空中階で熱割れが発生した場合、外にガラスの破片が飛散することになります。
もちろん、飛散防止性能をもった遮熱フィルムも販売されています。(ビル所有者の許可を得たうえで)採用する場合には、熱割れ防止性能を持ったフィルムを選択するようにしましょう。
まとめ

今回は、オフィスの空調を特集しました。
繰り返しになりますが、「オフィス利用者が健康に、気持ちよく働ける」場所づくりには、適切な空気を保つことはとても重要です。空調を適切に管理する方法は多岐に渡りますが、まずは自社のオフィス環境を把握することが大切。快適な環境にするための方法をリストアップし、できることから少しずつ着手、自社で実施するには難易度が高いものはオフィスパートナーに相談しながら進めるとよいでしょう。
FRSでは、働く場の環境改善を目的としたご移転やレイアウト変更のご依頼も承っております。お客様の環境やご予算に合わせてご提案できますので、お気軽にお声掛けください。
また、空調のリーディングカンパニーであるダイキン社の新宿ショールームでは、エアコンを実際に操作したり、温度・湿度の違いによる差異を体感することができます。ご希望のかたはご案内させていただきますのでお問い合わせください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
(著:FRS広報チーム)