
企業を取り巻くサイバーセキュリティの環境は、大きく変化しています。
近年は自社への直接の攻撃だけでなく、取引先を経由した「サプライチェーンリスク」が大きな課題となっています。
IPA(情報処理推進機構)が実施した「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」によると、サイバーインシデント被害を受けた中小企業の約7割が「自社の被害によって取引先にも影響があった」と回答しています。具体的には、「サービスの停止・遅延による逸失利益(36.1%)」や「顧客への賠償・取引先への補償負担(32.4%)」といった重大な損害が発生しています。さらに、不正アクセスを受けた企業の19.8%が「取引先やグループ会社を経由して侵入された」と回答しており、中小企業がサイバー攻撃の「踏み台」にされるケースも目立っています。
自社が被害を受けることで取引先に多大な影響を与えるリスクがある一方、取引先を経由して自社が被害を受ける可能性もある——。こうした時代の中で、企業のセキュリティ対策状況を一定の基準で客観的に評価する仕組みとして整備が進められているのが「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」です。
評価を取得することは、単なるセキュリティ対応にとどまらず、自社に大きなメリットをもたらします。
・「安全な取引先」としての客観的な信頼証明
・競合他社との差別化・取引チャンスの拡大
・サイバー攻撃による事業停止リスクの低減
なお、本解説は全3回の連載シリーズでお届けします。1回あたり5分程度でサクッと読める構成にしていますので、日々の業務の合間に読み進めながら、全3回を通してSCS評価制度の基本・自社への影響・今からできる準備までをしっかりご理解いただけます。
第1回となる本記事では、SCS評価制度の概要や誕生背景、評価されるポイントについて分かりやすく解説します。
なぜ今、SCS評価制度が始まるのか?
バラバラだった確認作業を揃え、お互いの負担を減らすため
これまでも、大企業を中心に「取引先のセキュリティ対策状況を確認する」取り組みは行われてきました。しかし従来は、企業ごとに独自のセキュリティチェックシートを作成し、取引先に回答を求める方式が主流でした。
「取引先から突然、専門用語が並んだ分厚いExcelのチェックシートが送られてきて、回答に頭を悩ませた」という経験をお持ちの担当者様も多いのではないでしょうか。
こうした独自の確認方法には、受ける側だけでなく評価する側にも大きな課題がありました。
発注側(評価する側)
取引先ごとに異なるフォーマットの回答を精査・評価する負担が大きい。
受注側(評価を受ける側):
取引先ごとに異なる大量の質問票に個別に回答しなければならず、膨大な業務負担が発生する。
さらに、自社での「自己宣言」が中心だったため、取引先が本当に十分な対策を講じているかを客観的に判断することが難しいという側面もありました。
こうした課題を解決し、サプライチェーン全体のセキュリティ水準を無理なく・効率的に底上げするための「共通のセキュリティ指標」として作られたのがSCS評価制度です。共通基準で客観的に可視化されることで、企業間の取引における確認コストや心理的ハードルが大幅に削減されると期待されています。
SCS評価制度とは?

SCS評価制度(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度)は、経済産業省が主導し、サプライチェーン全体のセキュリティ水準を客観的な基準で評価・可視化するために作られた制度です。
制度の策定・監督は経済産業省および内閣官房国家サイバー統括室が担い、実際の申請受付やシステム運用などの実務は、セキュリティの公的専門機関であるIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が執り行います。国のサイバーセキュリティ戦略の重要施策として位置づけられている、公的信頼性の高い評価システムです。
評価の基準には、グローバル標準であるNIST CSF(米国国立標準技術研究所の情報セキュリティフレームワーク)や、国のセキュリティ指針がベースとして採用されています。
一言で言えば、「自社がどのレベルのセキュリティ対策を講じているか」を、国が定めた共通言語で取引先に示せる仕組みです。
従来の「自社による自己宣言(チェックシート)」とは異なり、専門機関による客観的な評価(★3や★4など)を受けることで、取引先に対して「口先だけでなく、客観的に安全が証明された企業」として大きな信頼を提示できるようになります。
「★」でセキュリティ対策の水準を示す
SCS評価制度の最大の特徴は、セキュリティ対策の水準を「★(星)」の数で段階的に可視化する点です。制度では★3、★4、★5の段階が設けられています。
★3(最低限実装すべき対策)
企業がサイバー攻撃に備えて「最低限実装すべきセキュリティ対策」を講じていることを示す水準です。自社による評価を基本とし、セキュリティ専門家が内容を確認・検証する仕組みが想定されています。「最低限」とはいえ、自社だけでルールや管理体制をゼロから整えるのはハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、現在の対策状況を整理し、足りない部分を専門家のサポートを得ながら補強していけば、着実に達成できる水準です。
★4(標準的に目指すべき対策)
企業が取引関係の中で「標準的に目指すべきセキュリティ対策」を求める水準です。第三者評価機関による客観的な評価に加え、技術的な検証などが実施される仕組みが想定されています。
★5(特に高度な対策)
特定の重要情報を扱う場合などに求められる、極めて高度なセキュリティ水準を対象とする評価です(現在は★3・★4を中心に制度の具体化が進められています)。
このように段階分けされることで、すべての企業に一律の過剰な対策を求めるのではなく、自社の事業内容や取引先の要請に応じた「適切な目標水準」を設定できるよう設計されています。
実際に何が評価される?

「セキュリティソフトやUTMなどの機器を導入すればよいのでは?」と考えがちですが、SCS評価制度で評価されるのはIT製品の導入状況だけではありません。
評価対象は、以下のように多岐にわたります。
- 組織・ルール: セキュリティに関する社内規定、対応方針の策定と周知
- 情報管理: 機密データの特定、取扱エリアの区分・制限、退職時の機器回収
- 技術的防御: アクセス権限の管理、パスワードルール、データの暗号化
- 物理対策: 部屋の入退室管理、サーバ室や機器の施錠、盗難防止措置
- 人・運用: 従業員へのセキュリティ教育、標的型メール訓練、定期点検
- 事態対処: 脆弱性への対応手続、インシデント発生時の緊急連絡・対応体制
特に「物理対策」は、システム導入だけでは解決できず、オフィス環境そのものの見直しが必要になるケースもあるため、早めの確認や準備が求められるポイントです。
つまり、「ツールを導入しているか」だけでなく、「人・ルール・運用・物理環境を含めて、企業として安全な体制を継続できているか」が総合的に評価されます。
2026年度末のスタートを見据え、「今」から準備を始めるべき理由
SCS評価制度は、2026年度末頃(2027年3月頃)からの運用開始(★3・★4)が予定されています。
「まだ先のこと」と思われがちですが、社内ルールの策定や運用の定着、アクセス管理やオフィス環境の見直しには相応の時間が必要となります。制度が始まってから、あるいは発注元から要請を受けてから慌てて対応しようとすると、業務への負荷が集中し、最悪の場合は取引の継続に影響が出るリスクもあります。
だからこそ、今の段階から以下のステップで「準備の構え」を整えておくことが、他社に先駆けた差別化(取引先からの信頼獲得)につながります。
- SCS評価制度の全体像と自社への影響を理解する
- 自社の現在の「情報資産」と「セキュリティ対策状況」を可視化する
- 自社が目指すべき水準(★3相当か、★4相当か)の目安をつける
まとめ:信頼される企業であり続けるために
サイバーセキュリティ対策は、単なる「コスト」や「守りの作業」ではなく、これからの時代に取引先から選ばれ続けるための「他社と差別化する強み(信頼の証)」へと変化しています。
働く場づくりを総合サポートするFRSでは、SCS評価制度の「★(星)」獲得に向けた取得支援を行っています。不動産・内装構築のノウハウに加え、専門のICT部門を備えているからこそ、物理セキュリティ(空間・設備)とIT環境(システム)の両面から確実な評価取得をバックアップできるのが私たちの強みです。
「取得に向けて何から手をつけるべきか」といった、具体化する前の検討段階からお気軽にご相談ください。
【次回予告】第2回では、「SCS評価制度で中小企業は何が変わる?取引への影響とPマーク・ISMSとの違い」をテーマに解説します。義務化ではない制度がなぜ取引に影響するのか、既存の認証制度と何が違うのかを分かりやすく紐解きます。
参考
・サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/scs.html
・サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)(独立行政法 人情報処理推進機構)
https://www.ipa.go.jp/security/scs/index.html