
オフィス移転は、企業にとって事業成長や働き方を刷新する一大プロジェクトです。
とはいえ、社内の担当者が「移転業務に慣れている」ことは極めて稀でしょう。日々の通常業務と兼任しながら、手探りで進めている方が大半ではないでしょうか。
そのため、物件探しや内装決めだけで手一杯になり、ITやインフラの手配は後回しになりがちです。
しかし、オフィス移転における「ITの準備」は単なるPC移動ではありません。ネット回線や電話、セキュリティといった通信環境全体、すなわち「ICT(情報通信技術)インフラ」を整える極めて重要なプロセスです。
特にWeb会議が日常となった昨今、準備の遅れは「初日にネットが繋がらない」「会議室で通信が途切れる」といった致命的なトラブルに直結してしまいます。
そこで今回は、「オフィス移転におけるIT準備の基本範囲」から、失敗を防ぐ注意点、物件・内装と連動した全体スケジュールまで分かりやすく解説します。
そもそもオフィス移転の「IT準備」とは何を指すのか?
「ITの準備」といっても、その対象は多岐にわたります。オフィス移転におけるIT準備は、大きく分けて以下の5つの項目で構成されています。まずは、どのような項目が対象になるのか全体像を把握しておきましょう。
押さえておきたい「IT準備」の5大項目
1.通信(インターネット回線・ルーター・Wi-Fi)
光回線の契約・引き込み工事、プロバイダ手配、ルーターやオフィス内Wi-Fi(アクセスポイント)の設置・電波設計。
2.電話(代表番号・内線)
会社の代表電話の番号継続、固定電話機の手配、ビジネスフォンの設定、FAX回線。
3.端末・機器(PC・モニター・複合機)
社員の業務用PCやモニター、社内サーバー、複合機・プリンターの移設や設定。
4.データ・システム(バックアップ・ネットワーク設定)
移設に伴う重要データのバックアップ取得、社内共有サーバー(NAS)や業務システムの接続設定。
5.セキュリティ(入退室管理・ネットワーク保護)
エントランスのICカード・顔認証などの入退室管理、防犯カメラ、来客用Wi-Fiと社内Wi-Fiの分離。
段取り不足で起きる「3つの失敗例」
全体の流れを把握しないまま個別に進めてしまった際に、よく起こりがちなのは下記のようなトラブルです。これらを未然に防ぐためにも、スケジュール全体の把握が欠かせません。
失敗1:インターネット回線の開通が移転日に間に合わない
原因: 通信キャリアの開通工事は申し込みから1〜3ヶ月(繁忙期はそれ以上)かかるため、内装決定後に手配すると初日にネットが使えない事態に陥ってしまうこともあります。
失敗2:電源やLANの位置がデスクレイアウトと合わない
原因: 内装・什器の図面とIT配線図面が連携していないため、デスクの下に長いコードやモール(配線カバー)が這うことになり、見栄えや安全性を損ねてしまいます。
失敗3:会議室に入るとWi-Fiが極端に遅い・切れる
原因: 会議室の遮音壁やパーテーション、執務室内の柱などによる電波の遮蔽・干渉を考慮せずにWi-Fi機器を配置してしまうことが要因となります。
こういった状況に陥らないためにも、移転準備の早い段階から次章にある移転の全体スケジュールを把握しておくとよいでしょう。
【全体像】不動産・内装・ITが連動するオフィス移転スケジュール
「物件契約」「内装工事」「IT準備」は別々に動くのではなく、互いに深く影響し合っています。トラブルを防ぐための標準的なタイムラインをご紹介します。

※50〜200坪のオフィス移転における標準的な準備期間の目安です。オフィスの規模や工事内容、個別の事情により必要な期間は企業ごとに異なります。
【フェーズ別】オフィス移転全体の動きと連動するIT準備の実務
ここからは、各フェーズで「オフィス全体の動き」に対して「ITで何をすべきか」を順を追って確認していきましょう。評価対象は、以下のように多岐にわたります。
【移転6〜4ヶ月前】IT環境の棚卸と要件整理
移転全体の動き: 新オフィスの契約締結や、現オフィスの解約予告(一般的に6ヶ月前)を行う時期です。同時に、新オフィスで実現したい働き方の検討を進めていきます。
IT準備の重要ポイント:
◇現行IT環境の棚卸し: 現状の通信およびネットワーク環境の調査を行い、現状の課題を洗い出しておくとスムーズです。
◇電話番号の引き継ぎ可否確認: 管轄エリアの確認を行い、現在の番号が継続利用できるかあらかじめ確認しておきましょう。
【移転4〜2ヶ月前】レイアウト確定と「内装・電気工事」のすり合わせ、設備調査
移転全体の動き: オフィス図面や座席レイアウトを確定させ、デスクやチェアなどのオフィス什器を選定・発注するフェーズです。
IT準備の重要ポイント:
◇内装・電気図面との配線調整: OAフロア(二重床)内のLAN配線ルートや、机・会議室のコンセント位置、ネットワーク機器を収める場所を内装側とすり合わせます。
◇回線工事の手配と機器発注: 開通工事日を押さえ、ネットワーク機器(ルーターやUTMなど)を早期手配しておくと安心です。
◇ビルの設備調査(MDF確認): 移転先の通信共用スペース(MDF室)に希望の光回線を引き込めるかを確認します。
◇Wi-Fi環境の設計: 社員数、フリーアドレス席、Web会議ブースの配置を考慮し、無線の電波が弱くならないようアクセスポイントの台数と設置場所を設計します。
【移転1ヶ月前〜直前】内装工事と「引っ越し準備・事前設定」
移転全体の動き: 新オフィスの内装・電気工事が本格的にスタートします。社内への移転周知、不用品の廃棄、荷造り用ダンボールの配布などを進めていく時期です。
IT準備の重要ポイント:
◇機器の事前設定(キッティング): 移転当日の混乱を防ぐため、ルーターやネットワーク機器全般の設定を事前に行います。新しい機器の場合は、移転先に先行して設置しておきます。
◇重要データのバックアップと精密機器の移送手配: サーバー等のバックアップを取得します。PCやサーバーなど衝撃に弱い機器は、通常の什器とは別に専門便などで運搬を手配することをおすすめします。
【移転当日〜業務初日】搬入・開通テストと「初日サポート」
移転全体の動き: 荷物や什器の搬出入を行い、新オフィスの引き渡しを完了させます。並行して旧オフィスの原状回復工事も始まります。
IT準備の重要ポイント:
◇当日の設置と開通テスト: 機器を設置・結線し、インターネット、通信、などのネットワーク機器類が正常に動作するかをテストします。
◇初日の現地サポート体制: 「ネットに繋がらない」「プリンターが認識しない」「サーバーにアクセスできない」といった初日のトラブルに即座に対応できるサポート体制を敷いておくと、業務への影響を最小限に抑えられます。
オフィス移転で見直す「オフィスセキュリティ」

移転は、オフィスの安全性を最新化する絶好の機会です。近年、その脅威が増しているサイバーセキュリティ対策も含めて、下記のような対策を検討するとよいでしょう。 「内装(空間)」と「IT(ネットワーク)」の両面から一体で設計することで、安全性と利便性をバランスよく両立できます。
空間設計で守る「物理セキュリティ」
ゾーニング設計: エントランス(来客エリア)、共用会議室、一般執務エリア、サーバー室など、区画ごとにセキュリティレベルを設定します。
スマートな入退室管理: 物理鍵の管理をなくし、ICカード、スマートフォン、顔認証などでスムーズに解錠・履歴管理ができるシステムへ移行すると管理負担が軽減されます。
情報漏洩を防ぐ内装配置: 来客から執務室のPC画面が見えない座席配置や、Web会議の音漏れを防ぐ遮音ブースの配置などを取り入れるのが効果的です。
ネットワークを守る「情報セキュリティ」
情報漏洩およびランサムウェア対策: UTMなどのセキュリティネットワーク機器やEDRなどのセキュリティサービスの導入を検討してみましょう。
来客用(ゲスト)Wi-Fiの分離: 来客が使うWi-Fiと、社内データにアクセスする業務ネットワークを完全に切り離して安全性を確保します。
監視カメラ: 社内で重要な個所のエリア、なおかつ遠隔からでもオフィス内の状況を確認できる防犯環境を構築しておくと安心です。
なぜ「移転のタイミング」でまとめて導入すべきなのか?
ドアの電気錠や監視カメラは、壁・天井の配線工事や建具工事と密接に関わるため、内装工事と同時に施工するのが最も工数と費用を抑えられます。後から追加工事を行うよりも、計画段階から一緒に組み込んでおくことがおすすめです。
移転プロジェクトをスムーズに進めるための「進め方・体制づくり」
オフィス移転は、不動産・内装・ITと多岐にわたる専門分野が同時に動きます。社内リソースだけで円滑に進めるための体制づくりの考え方を整理してみましょう。
専門会社を個別に手配する場合のハードル
業者間の「伝言ゲーム」による負担: 不動産会社、内装会社、電気工事業者、通信会社など、それぞれの専門業者の間に担当者が立ち、仕様やスケジュールの調整役を担う必要があります。専門知識が求められる場面も多く、ご担当者様への負荷が大きくなりがちです。
責任範囲のすき間: 「ネットが繋がらない」「配線が届かない」といったトラブル時に、内装側とIT側のどちらの責任なのか切り分けが難しくなるケースがあります。
連携をスムーズにするパートナー選び
不動産、内装、ITインフラは切り離して考えず、初期の物件選定や内装コンセプトの段階から「ITの要件も一緒に理解・相談できるパートナー」と進めることで、手戻りや調整コストを大幅に削減できます。
自社の社内リソース(専任情シスの有無など)に応じて、すべてを自社で調整するのか、あるいは窓口をまとめて一貫して任せられる体制を選ぶのかを検討することが、移転成功への近道となるのではないでしょうか。
特に、内装側とIT側の責任範囲などに関するトラブル対応をしなくても済むのは、忙しい移転担当者にとって大きな負担軽減につながります。
まとめ

オフィス移転におけるIT準備は、単なるパソコンや周辺機器の移動にとどまらず、通信回線や電話、セキュリティ対策までを含めた複合的なプロジェクトです。
移転をスムーズに成功させる鍵は、全体のスケジュールの中で「内装デザイン」と「IT環境」をセットとして捉え、できるだけ早い段階から段取りを進めていく点にあります。もし社内の専門知識に不安があったり、複数の業者とのやり取りや日程調整の負担を軽減したいとお考えであれば、物件選定から内装、ICTインフラまでトータルで相談できるパートナーへ早期に相談してみるのも心強い選択肢のひとつです。
株式会社FRSの強みは、まさにこうしたITに特化した専門部署を社内に持っていることです。不動産と内装の専門部署がICTのプロ集団と同じ社内で緊密に連携を取りながら働いているため、移転業務を一気通貫でお引き受けできることはもちろん、部署間の情報連携も非常にスピーディです。お客様ごとのご事情やご要望に対しても、柔軟かつ迅速に対応させていただくことが可能です。移転の計画が持ち上がった際には、ぜひお気軽にご相談ください。
〈関連記事〉
【Wi-Fi環境サポート事例】全国200拠点の介護DX|ベストライフが挑んだ全館Wi-Fi刷新と見守りシステム一括導入の全貌